「ヴヴゥ〜、喉が痛い」
俺は喉を手で触る。別に見た目はどうってことないのに、声はガラガラしてしまっている。歌い過ぎた。言葉を発するだけで喉が痛いし、喉が渇いたようにも感じてしまう。
カラオケで散々歌い終わった俺たちは次に白浜の家に向かうのだが、カラオケで歌い過ぎて疲れたせいか、白浜の家まで行くのが面倒くさい。疲労感が俺の足を重くした。
俺は大きなあくびをかいて手を空へと伸ばす。そして、そおっと集団の後ろの方に移動する。後ろの方に移動したら、隣には倉本がいた。倉本は後ろまで移動してきた俺の方を物珍しそうに見た。
「何で後ろまで来た?」
彼女は少しだけ敵意を剥き出しにしながら俺に聞いてきた。
いつも彼女はこういう大人数でのときは後ろの方にいる。後ろの方に一人いる。そこから前にいる北瀬など楽しそうに騒いでいる奴を見ているのだ。
「別にお前と話したいってわけじゃねーよ。ただ、カラオケで歌い疲れたからだ」
「あんなに歌が下手くそだったのにか?」
「うっせぇなぁー、それとこれは別だろ?」
俺は前の方を向いた。先頭には白浜と小深が笑いながら話をしている。
俺は昨日湯島から聞いた白浜の情報を頭の中で再度読み直した。
「なぁ、知ってるか?」
「ん?何だ?」
「白浜の家ってさ、彼女の叔父さん夫婦の家なんだけどさ、その叔父さんは刑事やってるらしいよ」
「ふ〜ん。だから、あんなに正直ないい人が育ってしまったのか」
いや、それは偏見である。
まぁ、それもしょうがない。ここにいる俺以外、白浜の過去の事情なんて一切知りもしない。偏見だって生まれてくるし、俺たちにとって天使のような立場にいる白浜にそんな壮絶な過去があったなんて誰も想像しない。
偏見とは言わばレッテルである。剥がしにくいレッテル。そんなものを白浜は喜んでいるのだろうか。本当の自分をみんなに見せたいとは思わないのだろうか。
俺が白浜の方をじっと見ていると、倉本が俺にこう忠告した。
「おい、お前逮捕されるんじゃないか?」
「えっ?何で?」
「変態行為、ストーカー、その他諸々」
「いやいやいや、何で俺がそれで逮捕されなきゃならないんだ。別にそんなことしてねぇよ」
「本当か?」
「本当だよ」
彼女はまた俺の目の奥にある何かを見つめるが、俺のことを見ていると目の毒のようで、ため息を吐いて前を向く。
「まぁ、変態臭がお前からプンプンする」
……この子、俺に対しての暴言が多くない?なんか、俺、勝手に変態にされちゃってるんだけど。
俺はこれから行く白浜の家を想像してみた。すると、とても大きな豪邸である。家には図書館とかありそうな感じ。白浜のお嬢様感は凄いから、他のみんなは少し浮かれているのである。
俺はみんなは楽しそうに白浜の家を想像しているが、彼女の家の事情を知っている俺はその態度が少し失礼かと感じてしまう。
俺が心配していると、倉本が俺にボソッとこう告げた。
「まぁ、大丈夫だろ。なるようになる」
俺は倉本にこれから俺がすることを何にも言っていない。なのに、彼女は何かを悟ったように俺に向かって言ったのであった。
頑張るか。
俺は心の中で自分に言い聞かせた。