俺と北瀬が白浜の家のリビングで堂々とくつろいでいたら、白浜のお父さんとお母さんが帰ってきた。俺と北瀬はそれを察知した瞬間、背筋をピンと伸ばして姿勢を改める。ご両親は俺たちを見ると柔らかい笑顔を見せた。
「君たちが柚子木くんと北瀬くんだね。舞から話は聞いているよ」
「あっ、は、はぁ……」
何か返事をしなければならないのに、なんと返事をしてよいか分からずに、俺と北瀬は黙ってしまった。
というより、まず気まずい。ご両親がいない間に勝手に家の中に上がってしまった。そして、白浜と女子たちが部屋に行ってしまったので、応対するのが俺と北瀬しかいない。それに、男二人っていうのがそれまた気まずい。女子の家に男二人がいるっていうのはヤバいんじゃないのか?白浜のお父さんは刑事さんらしいから、逮捕されちゃいそう。
俺と北瀬の顔には焦りの色が見えていた。切羽詰まったとでも言った方がいいのだろうか。何かこれは俺たちの生命に関わる問題なのではとも一瞬思えた。
お母さんは冷蔵庫の中から箱を取り出した。箱の中はケーキのようで、お皿にケーキを乗せフォークを添えてテーブルの上に置いた。
「どうぞ、召し上がってください」
目の前に差し出されたケーキは、育ち盛りの俺たちにとってエキサイティングなものだった。そりゃぁ、断ることは出来ずにフォークを手に取り、ケーキにそっと刺し込んだ。そしてフォークを掬い口にケーキを入れる。
「うんマイッ‼︎」
「うんマイッ‼︎」
俺と北瀬は思わず声に出して美味しさを表現してしまった。口に入れたら、甘い香りが口の中から鼻の穴を通り抜けた。舌に触れていた生クリームがとろけるように口の中でふっと消える。甘過ぎないのに口の中に残るその余韻はヨダレを分泌させた。スポンジは柔らかく、これまた絶品。そりゃぁ、四の五の言う必要はなかった。ただ美味いだけで良かった。それしか表現しなくとも、美味しさはそこにあったし、口で表現するよりも、ずっとずっと美味しい。だから、表現する気にもならない。
美味い‼︎
俺と北瀬は目を輝かせる。お母さんはそんな俺たちを見ると、嬉しそうに笑った。
「そう言ってもらえると嬉しいわ。ケーキを買っておいて良かった」
「えっ?それって俺たちのためにですか?」
「ええそうよ」
げっ⁉︎そんなに手厚く歓迎してくれてるの?嬉しいわ〜。でも、何だか、俺たちがおこがましいようにも思えてしまう。
「ああ、別にそんなに謙遜することはないのよ。ただ、嬉しいのよ。あの子、家にお友達とか連れてきたことないから……」
「えっ?そうなんですか?」
「ええ。あの子、少し自分を見せるというか、自己主張が弱い子だから。だから、こういうことは初めてなの。ありがとう。舞と仲良くしてくれて」
「あっ、いや、そんな褒められるほどじゃないっすよ」
俺はそう言いながら北瀬を見た。北瀬は少しだけドヤ顔をする。
実はこの男、北瀬が白浜に数回頼み込んでこの家に行くことを許可してもらったのである。この、図々しい奴め。
まぁ、でも白浜が自己主張を全然しないというのは分かる。いや、自己主張というよりも、自己の意見を簡単に曲げるのだ。
自分のやりたいことや意思を表明しても、その方針が誰か一人でも相反る場合、彼女は自分の方針をすぐに曲げて、相手に合わせる。それは彼女の過去からの産物とでも言えるだろう。
さて、どうしたものか。彼女を普通の女の子に治すにはどうしたらよいのやら。