「その、彼女って何か過去に辛い経験とかされてませんか?」
唐突に俺は白浜のご両親にそう聞いた。その質問に、ご両親は目を点にして、俺の方をじっと見た。そして、何か壁のような隔てていたものが砕けたかのように硬い表情を緩ませる。
「うん。実はね私たちは舞の本当の親じゃないんだ」
ご両親のその発言に北瀬は目を飛び出すほどびっくりしている。そりゃぁ、無理もない。俺だって最初、その事実を知ったときはそんな感じだった。まぁ、今となっては特に驚きもせずに聞き流せるが。
ご両親の発言は予想通りである。が、別にその重大な告白を聞きたいわけじゃない。俺が聞きたいのは彼女の事故についてである。
神様からも資料はもらった。確かにその資料には必要なこととか、細かいところまでちゃんとしっかり記されていて、分かりやすかった。けど、それだけではダメなのである。どんなに事件の真相を知ろうとも、彼女の近くにいた人からの視線で見た当時の彼女を知りたい。そうじゃないと、今の彼女を暴あばけない。
「その、白浜の本当のご両親って、事故でお亡くなりになられたんですよね?」
俺がそう聞くと、お父さんはなぜ知っているのだろうかと少し疑問の表情を浮かばせた。
「その、学校で噂になってるんです。彼女のご両親は10年ほど前に起きた交通事故で故人となってしまったって」
もちろん今の説明は全部デタラメ。その場で即行作った根も葉もないただの嘘。それでも学校のことを知らないご両親にはその嘘は通じるはず。
すると、北瀬がそっと俺だけに聞こえるように小さな声でこう質問してきた。
「えっ?噂になってたの?」
俺の思惑通りに行こうとしても、この北瀬は俺の思惑を知らないから邪魔である。俺は半ば怒りの感情をそっと彼に見せながら彼の足を蹴る。
「その、イジメとかにはなってないよね」
お父さんは心配した様子で俺にそう聞いてきた。それはつまり白浜のことを案じているという表れである。いや、お父さんだけじゃない。お母さんも暗い表情をしながら、白浜のことを心配しているようには見えた。
さっきまで、俺は今の白浜を作り上げている原因を考えていた。そして、その原因として考えられるものが二つあった。一つは交通事故によるもの。そして、もう一つが新しい彼女の親に大事にされていなかったというもの。どちらも可能性はありえた。
しかし、別に白浜はこのご両親に大切にされていなかったというわけではなさそうである。では、やはり純粋に交通事故のことが今の彼女を作っているのだろう。
彼女はなぜ、今のようになってしまったのか。それが俺には不思議でたまらない。
自分を常に下の者、生きてはならない者として見ている彼女は少し生物的ではない。まるで、自分から死に向かっているような感じがするのである。しかも、これは倉本のように自ら死を自覚するのではなく、ゆっくりと自覚しないで死に向かっている。
生物として自ら死に向かうのはあまり生物らしくない。彼女は少しだけ人間らしくない一面がある。
生きることが嫌なのだろうか?