俺はお父さんから彼女の詳しいことを聞いた。特に詳細なことも神様が集めた資料と同じであった。ただ、やっぱり当事者に聞いた方が良かったと思わせるような言葉が飛び出した。
「彼女は事故当時意識不明の重体だった。そして、意識を取り戻したのは二日後。その時の彼女はまるで何かが吹っ切れたかのように大笑いした」
大笑いした。その言葉がすごく俺の胸につっかえた。
神様の資料は事件のことを詳細に記されていたが、そんな言葉は一度も見当たらなかった。事故のことは詳しく調べてはいたが、白浜舞という一人の女の子に関してのことではない。俺は事故は知っているが、当時の彼女を知らないでいた。
「笑ったってどういうことですか?」
俺が質問をすると、お父さんは気さくに笑いながらも、何処か憂鬱な表情を見せる。
「事故が起きてから二日後に目を覚ました時、舞は事故の断片的な記憶を覚えていた。車と車の衝突事故で、運良く外に投げ飛ばされた彼女は悲惨な事故現場を目にしていて、その記憶を覚えていたんだ。目を覚まして、その記憶を思い出すと、彼女は泣きもせずに笑った。それから、私は舞の笑顔を一度も見ていない」
人は極限状態に陥ると、どんなに辛い状況下にいても笑うという。
が、しかし、白浜のその笑顔は何か他のもののようにも思える。だからと言って俺はその笑顔が何なのかは分からない。俺自身、そんな極限状態に陥ったことがないし、そんなに不幸な目にあったとも思えない。
大切な人を失ったことはあるけれど……。
ああ、いや、このことは忘れよう。嫌なことを思い出してしまいそうである。
「それからは彼女の笑顔を一回も見ていないんですか?その、本当の笑顔っていうか……幸せな笑顔を」
ご両親は頷いた。その時、彼女という一人の人間がどのように出来上がったかが分かったような気がした。いや、まだ完璧ではないが、段々と少しづつ彼女の存在をつかめているように思える。
「じゃぁ、彼女は泣きましたか?事件のことを自ら話して、自ら思い起こして涙を流しましたか?」
ご両親は首を横に振った。俺と北瀬はそのことから白浜が歩んできた過去を自らの頭の中で想像した。辛い、いやそれ以上に惨い。小さな子供にとってその現実を受け入れることなんて出来るわけがない。
彼女は今も子供のままなのだろうか?
俺がそう思った時、ふとお父さんの後ろに視線をずらした。そして、俺は目の瞳孔を開いた。
そこには白浜がいた。
「何でそのことを話すの?」
彼女はまるで目の前の事態を拒絶するかのように怒りを露わにしていた。彼女の発言には怒りが何重にも込められており、まるで事故のことが俺たちにばれたくなかったかのように。
初めて見た彼女の怒りの表情は恐ろしいと思えた。いつも、笑顔を振りまいていたのだから。偽の笑顔であったとしても、そんな彼女が俺の中の彼女であり、怒りを見せる彼女は新鮮で恐ろしい。
彼女は自らの父母に怒りを表した。
「何で、そんなことを二人に言うの⁉︎」
彼女の怒りの声は他の女子たち三人にも聞こえていた。
白浜舞が崩れ始めた瞬間であった。