隠したい過去を二人に聞かれてしまった。そう思った彼女は半ば激情に駆られ、両親にその怒りをぶつけた。
二人、いや違う。踊り場のところに他の女子たちもいた。丁度、四人が降りてくる時にこの話をしていた。タイミングがとても悪い。
知られたくない過去とは何のことなのだろうか。事故にあったことか?大笑いしたことか?両親が本当の両親でないことか?自分一人生き残ったことか?
今まで彼女の素性が一切わからなかった。堅い殻の中に身を隠していた彼女の素性なんて知ることもできなかったし、俺たち自身がそれを気にしてはいなかった。けれど、実際、こんな近くに悩んでいる人がいたんだ。
友達なのに。
その言葉が俺の脳裏をよぎる。友達なのに、俺は気づくことさえできなかった。そして、殻から出たことのない彼女を本当の彼女だと思っていた。
今、彼女はその殻を破りつつあるのだと少しだけ実感した。彼女のその怒りが自然に殻を割っている。彼女が初めて見せた怒りは新鮮である。
「何で二人にそんなこと言うのッ⁉︎」
白浜は両親に強くものを言う。彼女が強くものを言うことは初めてだったのか、両親もそんな彼女に少し動揺した。
「いや、これは……」
「だって、それは私の問題だから!お母さんやお父さんの問題じゃない!私の問題!」
彼女からしてみればそれもそうである。今の彼女の両親は血の繋がっていない両親であり、また事故の直接的な被害者じゃない。事故の現場にもいなかったし、その現場にいたのは白浜舞という一人の少女のみ。新しい両親なんて言われても、そう簡単に心を許せるのだろうか。
俺だったら無理かもしれない。それは今みたいな年端であっても同じである。いつになっても、両親をそう簡単に変更することなんて無理だし、抵抗がある。
お父さんは少し悲しそうな顔をして彼女を見る。繊細な彼女はその父親の顔の変化をすぐに察した。
「私は、私たちはお前のことを心配していたんだ」
嘘偽りのない言葉だった。彼女のことを気にかけるようにして言う表情は彼女にそれを分からせた。それに、何年も一緒に暮らしているのだから、そんな表情なんて見なくても彼女には分かった。
だから、辛かった。優しい言葉をかけてくれる親に彼女は酷い言葉を言った。それは彼女が初めて言ったような酷い言葉で、今考えてみると、自らもそんなことを言ったのかと後悔する。
親に対して怒りをぶつけていたはずなのに、今となっては後ろめたさを感じている。今まで感情を表に出さなかった彼女にとって、こんな事は久方ぶりであったはずである。感情の劇的な変化は感情を表に出す者にしか感じることができないのだから、今の感情は初めての感情が心の中からふつふつと湧き上がっているだろう。そして、その言葉を説明できないから、彼女自身何だかよく分からなくなって、頭がこんがらがって混乱して、誰に怒っていたのかも分からなくなる。
自分が何なのか、何をしたのか、どんな思いでそこに立っているのかが分からなくなった彼女はまるで何かに取り憑かれたように一瞬悍ましい表情を浮かべ、玄関へと走った。
「おい、白浜!」
俺はそう彼女に向かって叫んだが、その時にはもう彼女はそのに出ていた。
白浜舞は感情に戸惑い始めた。