「柚子木くんは知っていたんですか?」
静寂を打ち破る言葉が白浜の口から出てきた。俺は彼女になんて言葉をかけてあげればよいのか分からず、彼女も俺になんて言えばよいのかが分からなかった。そんな中、彼女が苦し紛れに発した言葉には恨みなどの負の感情は一切見当たらない。ただの純粋な質問だと感じた。
彼女が聞いたことは事故のこと。白浜の血の繋がった両親、そして双子の幼い子供。尊き三つの命が彼女の目の前で失われた。
知っている。俺は白浜の異常な笑顔から、彼女が人として欠陥的だと見抜いた。だから、自ら彼女の素性を調べたのだ。
「知っていたさ。だから何だ?」
知っているから何が悪い?知られたくなくとも、俺が自ら知ろうとしたのである。誰かのせいではない。自己責任である。
俺は彼女がご両親に雑言を言ったのが少しだけ許せなかった。怒るなら俺に言ってほしかったのに、何故彼女は俺ではなかったのか。
「勘違いか?ご両親に怒ったのは」
彼女はこくんと頷いた。ああ、やっぱりそうである。その場で勝手にご両親が俺たちに教えたと思い込んで、悪口を言ったのだ。根も葉もない根拠をあてにして。
俺はそんな彼女の頭にポンと手を置いた。
「まぁ、謝れば許してくれるだろ。ほら、帰るぞ」
俺はそう言って彼女に背を向けて家の方に歩き出した。けれど、彼女はベンチから立とうとはしなかった。座ったまま動かずに、下を向いて難しそうな顔をする。俺はそんな彼女のことを見ていたら、彼女はボソッと呟くように質問をした。
「柚子木くんは何で事故のことを知っているんですか?」
「……調べた。自分から。それがなんか悪いか?」
彼女は首を横に振る。手袋をしていない彼女の細い指は冬の外気に触れて、白く冷たくなっていた。そんな指と指をすりすりと擦りながら俺の顔を見た。
「何で私のことを調べたのですか?」
「何でって……そりゃぁ、心配したからだよ」
「心配……ですか。私の何処に心配したんですか?」
容赦ない質問を俺に浴びせる。鋭い針のようなもので俺を刺しているみたいだった。
「そりゃぁ……」
俺は彼女の顔色を伺う。これ以上、彼女に何かを言うと、彼女を傷つけてしまうのではないかと思わされる。だから、発言を躊躇った。
「いいですよ。遠慮しなくても。だから、教えてください」
まるで感情のないロボットのようである。どんなに暴言を言われても挫けないと言わしめんばかりである。まぁ、今、その彼女の心は何処にあるのか分からないが……。
「じゃぁ、お言葉に甘えさせて頂くが、お前は生きている感じがしない。つーか、人じゃない。なんと言うか、あらかじめ決められたパターンの表情を俺たちに見せるロボットみたいだ」