俺は俺のことが好きである。そういう風に白浜に言った。
だけどその言葉は虚構であり、空っぽだった。本気で思っているけど、本気で思ってない。
自分の何処が好きと聞かれても俺は答えられない。自分は凄いと聞かれても俺は答えられない。自分は人よりも素晴らしいと聞かれても俺は答えられない。
そんなこと考えたこともなかったし、考えようとしても理性が邪魔をする。そんなことを考えるなんて図々しいとか、自己中とか、他の人を見下しているって俺の理性が言ってくる。それに自分を自分で褒めようとも、恥ずかしいし何にも答えられない上に、自分を客観的に見ることなんて出来るわけがない。
客観的というのは頭の中でもう一人の自分を作り出して、そのもう一人の自分から物事を見るのである。時にはそのもう一人の自分が他の人だったり、犬だったり、生命体ではないものだったり。
だから、自分を見ようとも、自分の全てを見れるわけじゃない。結果的に自分という存在を見定めることができない。
俺は自分がどうなのかを知らないし、劣っているのか優れているのかも知らない。だけど、俺は自分を好きではないと言えない。
今の俺がいるのは俺の家族や周りのみんながいるからであり、みんながいなかったら今の俺はここにはいない。それは白浜も同然であり、言ってしまえば北瀬や倉本、赤石に小深、門川、清戸などみんなが今の俺を作っている。だから、俺はみんなが作っている俺という存在を否定できないのだ。いや、むしろそれを愛さねばならない。人生という旅においてその自分は作り変えられて、自分というその存在はその一瞬一瞬を生きる。
一瞬一瞬が積み重なり、長い道となり、それが俺の人生であろう。俺たちはまだ16歳だ。そんな人生を悲観してはならない。
今まで作り上げてくれた人に感謝をする。それが今、自分のいる意味でもある。
「まぁ、とにかく、嫌いって言っちゃ、今まで俺を支えてくれた人に示しがつかないだろ?両親とか。だから、俺は俺が好きだ。そう思うから、俺は俺でいられる気がする」
俺が彼女にそう語ると、白浜は無反応で表情一つ変えなかった。すごく手応えが悪い気がする。
「えっ?引いてる?」
「あっ、いや、そういうわけじゃないんです。ただ、その……そんなこと考えたことなかったなって思っただけで、それで感心してました」
「感心?別にそれほど凄いことじゃないぞ」
「いや、私には無理です。柚子木くんの哲学には毎度毎度驚かされます。凄く、生きる力っていうのが感じます」
「そうか?」
「はい。そうです。凄く温かい何かがあるんです……」
彼女は笑顔を見せた。その笑顔は彼女の見せるいつもの笑顔とは違って凄く幼い笑顔だった。事故の時から、彼女はなんら変わりない笑顔を心の奥の扉の中に秘めていた。その扉が今、開いたのだ。
「柚子木のその哲学、私ももらってもいいですか?」
「別にそんな凄いもんじゃねーよ」
「そんなことないですよ。だって、今の柚子木くん、凄くカッコイイこと言ってました」
その時、冬の公園に笑顔の花が咲いた。10年ぶりの大きな綺麗な美しい花が咲いたのだ。