俺は頰をゆっくりと刺激しないようにさする。じんじんと頰が痛んでしょうがない。これは決して虫歯などではない。
頰にできた紅葉を手で覆っていた俺に怒りを見せつける倉本。どうもこうも、こんなにバットタイミングで彼女がここに来られるのは少し辛い。
しかし、それでも彼女が悪いというわけではなく、どちらかというと白浜の方が悪いだろう。
俺は悲しさと怒り満ちた視線を白浜に向けると、白浜は顔の前で手を振る。私じゃないと俺にジェスチャーするのだが、どう考えたって白浜が悪い。勘違いするのが悪い。
……いや、俺がいやらしい目をしているのが悪いのか?
否、不可抗力である。
「おい、柚子木、これはどういうことだぁ?」
倉本は俺に事態の経緯を説明しろと俺に問い詰める。が、しかし俺はこの状況を好機と見た。ここで俺の無罪を主張できればよい。
「いや、あのな……」
俺は倉本に経緯を説明した。が、もちろん白浜の悩みのことについては触れていない。俺と白浜が家に向かって帰るところからしか話してない。それよりも前のことを話してしまうと、色々と白浜の個人的な問題とかがある。あと、また恥ずかしくなって発火されたのではたまらない。
俺がこうなった経緯を洗いざらい話すと、倉本は「うんうん」と頷いて、納得したようである。
「あぁ、なんとなく理解は出来た」
「理解してくれたか?俺の正当性が!」
「……は?何を言っている?」
「え?」
「お前に正当性などあるわけなかろう」
「えぇぇぇぇッ⁉︎」
「驚いたところで許されんぞ!女の子が人の視線に敏感なんだからなっ!そういうのはよく分かるぞ!お前だって、どうせ本当はいやらしい目で見ていたんだろう⁉︎」
「違う!断じて違う!」
「じゃぁ、小深さんとか委員長の胸とか太ももとかをお前は見ないとでも言うのか⁉︎」
「ぐっ……、そ、それは……」
俺は何にも言えなくなってしまった。いや、そりゃぁ、俺だって男だからね。見ちゃうよ、そりゃぁ、不可抗力だから。男の性だし、見ちゃうよ。しかも、あの二人、ナイスバディだし……。
「知っているぞ!お前は二人にベトベトされている時、いつもニタニタと変態的な笑みを浮かべながら胸と太もも、そして恥部の部分を凝視しているのをなっ‼︎」
なっ、なんだとッ⁉︎お、俺が無意識の内にそんなところを見ているだと?
いや、あり得ない。だって俺は、俺は……。
「唇派だぞ!俺は胸とか太ももとかじゃない!唇派だ!」
俺は断言した。そう、俺は胸とか太ももよりも、唇好きなのである。
すると、目の前にいる二人は自然と自らの手を唇につけて、ハリ具合や潤い、厚さなどを確かめていた。
「……お前ら、どうしたんだ?」
俺がそう問いかけると二人ははっと我に帰り、自分のしていたことを恥ずかしく思うが、生憎俺は何が恥ずかしいのか分からなかった。
「じゃ、じゃぁ、唇派の柚子木に聞くが、胸とかは関係あるのか?そ……その、おお、大きさとか……」
「ん?まぁ、あんまり気にはしないな……。でも、どちらかと言えば大きい方が好きか?」
すると二人は自分の胸に手を当てる。白浜はある程度あるからいいが、倉本は全然ない。絶壁である。そんな彼女は白浜のちょっとある胸をじいっと見た。
「少し分けてはくれないか?」
「いや、お前、無理にも程があるだろ。なんか見苦しいぞ」
「なにッ⁉︎」
倉本は鋭い目つきをして俺を見る。まったく、こいつも一緒か。
俺は白浜の横に立ち、彼女の頭にポンと手を乗っけた。
「あのな、倉本。ほぼ大体の奴がみんな自分に対して嫌な感情を持ってるもんだ。だから、その嫌なことを嫌なこととして捉えるなよ」
「はっ?何を言っている?そんなの、無理に決まっている」
「無理じゃねぇよ。まずはその嫌なことを、コンプレックスを自分にしかないものだと捉えるんだよ。今の自分を作っている土台だと考えるんだよ。そうすりゃぁ、少しは今の自分をマシに見ることができるだろ?っていう話を今さっき俺は白浜にしていたの」