神社の敷地内の人が寄り付かない静かな所に神様は佇んでいた。苔がびっしりと生えた墓石の前で彼女は静かに空を見ていた。青黒い空には光り輝く星が夜空を彩る。
除夜の鐘がなるまであと数分。あと少しで今年は終わる。
今年は色々なことがあった。それは神様にとって大きな転機点も含まれている。
今までずっと彼女は自身の殻にこもったままだった。生前の苦しみを引きずりながら、また新しい二度目の神様としての人生を生きてきた。苦しみにもがき、喘ぎ、噎び泣きながら、自分の周りの人のことを見ていなかった。自分しか見ていない今まで。
けれど、今は違う。今の彼女はもう自分一人だとは思わない。今まで周りにいた人たちを愛し、そして寄り添う。
ただ、こういう時はどうしたらよいものか彼女は分からない。やっぱり、今までの何百年間も、そう人と寄り添いながら歩いたことはない。だからなのだろうか、少し恥ずかしいのだ。
今年は迷惑をみんなにかけた。そう考えると、仲良くみんなで年越しなんて出来るわけがない。気がひける。まだ新しく変わり始めてから数ヶ月。そんなに気安くいることなんて出来ない。
今年は一人で年越しを迎えようか。そう考えていた時、誰かに呼ばれたような気がした。神様は声の方を振り返ると、そこにいたのはココであった。
「どうしたのですか?」
ココは神様に優しい声で聞いた。それは神様の眷属としてなのか、それとも心を許しあっている仲だからなのか。ただ、彼女が一人だけでここに来たということだけが分かる。
「別にどうってことない。星を見ていただけだ」
本当のことなんて言えるわけがない。だって、彼女が一番迷惑をかけた人なのだ。そんな彼女に言えるわけがない。やっぱり恥ずかしい。
「お前こそ、どうしたのだ?早く戻ろないと除夜の鐘が鳴り始めるぞ」
自分の話題から逸らすようにココに言葉をかける。でも、何百年も一緒にいるココにそんなことを見破るのは容易いこと。
「今日はここでいいんです。光牙様はGHBの皆さんと仲良く楽しそうにしてますから、私はここで神様と一緒に空を眺めています」
ココは神様に笑いかける。
なぜココはそんな温かな笑顔を作ることができるのだろうかと、神様は自分の中に問いかけた。自分には出来ないが、ココは出来る。温かな笑顔を作れる秘訣は何なのか。
「神様は、誇っていいと思いますよ。自分のこと」
突然、ココは神様に思ったことを言った。率直にココの思ったことを神様に伝える。
「神様は今まで神様として頑張ってきたんです。何にも悪いことなんてない。引け目を感じる必要なんてないんです」
「そうか?でも、私は悪いことをした。その事実は変わらない。いくら足掻こうとも、その事実を変えることは出来ないのだ」
神様は自分の行いに引け目を感じないわけにはいかない。やってしまったことはもう事実としてあるのである。過去は変えられなどしない。
「しょうがないですよ。だって、誰だって悪いことを一つや二つは必ずしますから。神様はそれが少し大きかっただけなんです。それに、事実は塗り潰すことが出来ます。まだ、これから先がありますよ」
ココの優しい笑顔は変わらない。それは、初めて神様がココを眷属として、守護霊としてこの世にまた生を与えた時から変わらない。ココにだって苦しみはあった。それでも、今までの笑顔は本当に温かい。
「なぁ、ココ。私の笑顔は温かいか?」
ふと、神様はココにそう質問をする。
「はい!」
元気なしゃきしゃきとした声が神様の心の中で響いた。それは神様の中にいる、あのもう一人の神様にも聞こえていたことだろう。
「そうか。なら、嬉しいな」
神様はココに今まで以上の笑顔を見せた。これでもかというくらいの幸せな笑顔を。
除夜の鐘が新年の夜空に鳴り響いた。風が吹き、木を揺らしザワザワと森が唸る。二人して綺麗な夜空を仰いでいた。