「こんちゃーす」
GHBの部室に入る。もうみんな部室に集まっていて、部室の端っこでうずくまっていた。
みんな、手のひらを前に出していた。そこにあるのは学校の倉庫の中から見つけてきたストーブ。掘り出し物である。とても古めかしいストーブで、結構年季が入っていそう。
そのストーブの前で体育座りをして手のひらを前に向けているものだから、何かの宗教の儀式でもしているのかなと思ってしまった。
「そのストーブって使えたんですね」
俺はてっきりもう使い物にならない物だと思っていたのだが、どうやら使えるらしい。みんなはストーブの前で手を出して顔が蕩けているのだから、きっとそうなのだろう。
「冬のストーブとコタツって、人をダメにしますよね〜」
「うん。床に座っているだけで温かくなってくる」
「ダメだ。ここから離れられない」
四人は怠け顏でストーブの前に座っている。が、流石に俺一人が入るスペースがなかったので、渋々自分が座るパイプ椅子をテーブルの前に用意してそこに座った。膝の裏側から冬の鉄の突き刺すような冷たさが感じられる。
冬の金属と水ほど恐ろしいものはないのに、何故こうも寒い思いをしないといけないのかが気に食わなかったが、これも全て、さっきそこで安平に引き止められたからだ。
俺は部室に常備してある漫画を手に取り、それを読み耽ろうと思った時、ストーブの前に座っている四人があの話題を話し始めた。
「そう言えば知っていますか?この学校のサッカー部が初めて全国大会みたいな大会に出たらしいですよ」
「へぇ、そうなのか?」
「あー、私知ってる‼︎なんか、今年のサッカー部に凄い一年が入部したらしいよ。そいつのお陰でその大会出れたって言っても過言じゃないらしい」
「わ、私もその話聞いた。確か、サッカーで優秀な成績を収めた一年の子でしょ……?名前は……誰だっけ?」
神崎は一度名前を聞いたらしいのだが、その名前を忘れてしまったようである。
安平から聞いた話だと、その一年が北瀬と言われた。が、しかし、俺にはどうも北瀬がそんな奴には思えない。
確かに、北瀬は運動神経がいい。その上、スポーツに関しては頭の回転も速い。だけれども、やっぱりそんな凄い奴には思えない。
いや、思えないのではなく、思いたくない。
あの、ウザ男でクソ野郎がサッカー部の英雄?
いやいや、あり得ない。現実見ろって話だ。
そう俺は心の中で呟いていたが、やっぱり神崎の口から出た名前は……。
「北瀬くん……だったっけ?」
神崎がそう言うと、白浜と倉本が驚嘆した。そう、北瀬を知る者なら誰もがその行動をするだろう。
そして、初耳だったようである二人は俺の方を向いて、知っていたかと聞いた。
「ここに来る前にその話を聞いた。だけど、嘘だと思ってた」
ボソッと皮肉のように口にした。それは北瀬に対するほんのちょっとした嫉妬から出た言葉。
だけど、安平と神崎が言うのだから嘘はないだろう。この二人には特に接点はないから、信用ならざるを得ない。
白浜は北瀬がサッカー部の英雄だと知ると、目を輝かせた。
「凄いです!北瀬くん!」
そんな白浜を見た俺は少し彼女にも嫉妬した。白浜は友達の成功を嬉しく思っているようだけれど、俺はそんなに良いようには思えなかった。友達の成功を素直に喜べないのである。
今日の朝、北瀬が妙にちやほやされていた。それは多分、大会で良い成績を取ったからなのだろう。
だけど、そんな彼の成功のために何を捨てたのであろうか。
北瀬は湯島を捨てたのかなって思い始めた瞬間だった。