午前10時45分、俺はベッドの上にいた。仰向けに横たわり、白色のなんの変哲も無い天井を見上げている。
頭がクラクラするし、視界は少し揺れているような気もする。頭も痛いが、それよりも体の節々が妙な痛みを感じた。成長痛にも似て非なる痛みが俺の関節を襲う。
今頃、学校の奴らは合板と鉄のパイプの机と椅子に固定されて退屈な授業を強制的に受けさせられていることだろう。それに比べ、俺はベッドの上でゆっくりとしている。
そのことを体験すると、心の底から喜びを感じた。頭や関節が痛いが、それでも学校を休めるという事態は正直言って嬉しい以外の何物でもない。
ああ、これってスゲェ幸せ。
「いてててて……」
変なことを考えていたら、やたらに関節が痛くなってきた。特に膝が痛いったらなんのなんの。ジワジワとまるで少しずつ釘を打たれているかのような痛みがあるのだ。
まぁ、でも、やっぱり嬉しい。風邪を引いていて学校を休めるのなら、それはそれで願っても無いこと。あんなクソみたいにダルい授業を受けるのは御免である。
ゴロゴロとベッドの上で痛みと悪巧みが交錯していたら、俺の部屋のドアがガチャリと開いてココが部屋に入ってきた。手には体温計とジュースの入ったコップがあった。
「光牙様、大丈夫ですか?」
ココはそう言いながら俺の方に近寄り、また俺のおでこに手をぺたんとくっ付けた。風邪を引いている俺にはココの手の温度が冷たく感じられて気持ちが良かった。
「やっぱり熱ありますね。一応、光牙様、体温計があるので計ってください」
彼女が差し出した手には細長い棒状の体温計があった。その体温計を手に取り脇の間に挟んで数十秒、体温計から音が出た。体温計の画面を見てみると、そこに書いてあった数字は……。
「38.4度、高いな」
思ったよりも高い数値が出た。まぁ、安物の体温計だから多少の誤差はあるのだろうが、それでも高熱に違いはない。
まぁ、これで学校を完璧に休める理由ができたのだ。頭も痛いし気持ちも悪いが、ガッツポーズを取った。そんな俺を見たココは大きくため息をつき、俺にジュースの入ったコップを渡す。
「リンゴジュースです。風邪とか引いたときにリンゴって効くらしいんです。だから、飲んでください」
「まぁ、いいけど」
俺はココに言われた通り、リンゴジュースを飲んだ。程良い甘さと渇いた喉を潤す瑞々しさが凄く美味しい。
「学校には私から連絡しておきますので、光牙様はベッドの上でゆっくりと休んでいてください。お昼ご飯はお粥を作りますから」
彼女はそう言い残すと、俺の部屋を出て行こうとした。そんな彼女を俺は呼び止める。
「あ〜、そのさ、ゴメンな」
「はい?」
「ほら、朝早くから起きて弁当を作ってくれたのに」
「ああ、そのことを謝っているんですか?別にいいですよ。光牙様は自分の体のことを心配していればいいんです。光牙様は病人なんですから、安静にしていてください」
彼女は笑った。俺に心配されたことをどう思ったのかは、俺の知るところではないが、彼女は嬉しそうに笑っていた。その何気ない笑顔が俺の病気を吹っ飛ばしてくれそうな気がした。