一週間後、俺はようやく登校できるほどにまで回復した。実を言うと、俺がかかっていた病気はインフルエンザで、今日の朝に病院で医師から登校の許可を得てきた。
校門の前まで来た。いつもの見慣れたはずの光景が少しだけ久しい。一週間ぶりにここに来たのだから無理もないが。
今頃は3時間目の授業が始まったところであろう。
そう考えてしまうと、俺は校門のところに立ち尽くしてしまった。今から俺は学校に行くとなると授業に参加するということとなる。インフルエンザで学校を休めていて、授業も受けなくても良かったのに、今は受けなければならない。
「風邪を引きたい」
そう心の声が漏れてしまった。なんとも邪な思いかは当の本人である俺でさえも知り難い。
ただ、風邪を引いた初日の喜びは何と表現したらよいのかが分からないくらい、この上ないものであった。あの喜びは非常に尊く、そして輝かしい。
まぁ、俺みたいな学校嫌いの学生にとっては夢のワードってこと。
学校で授業を受けたくはないという思いと家に帰りたいという思いを抱えながらも、運命に抗えずに学校の敷地に足を踏み入れた。
その時であった。
「柚子木くん?」
聞いたことのある声が後ろの方で聞こえた。俺は振り返ってみると、そこにいたのは蕗見弥生、天才科学者姉妹の姉の方である。妹と違ってナイスバディーな体つきであり、例の門川との案件で、門川にフラれた乙女でもある。
彼女は俺を見かけると、スタスタと駆け寄ってくる。手に持っているのはコンビニのビニール袋で、コンビニに行っていたのだろう。
「ちゎっすッ」
俺は軽く会釈をした。弥生はそんな俺をにこやかな曇りない笑顔で見つめてくる。
「どうしたの?こんな遅くに」
「あぁ、いや、インフルエンザだったんすよ。昨日まで」
「ええっ⁉︎それはそれは……。大丈夫?」
「まぁ、お陰さまで」
別に弥生になんかしてもらった覚えもないが、何となく心配してもらったので漠然としながらも一応感謝の意を述べる。
蕗見はその後、じっと俺のことを見つめ、いきなりこんなことを言い出した。
「ねぇ、今からちょっと遊びに来てよ」
弥生が言う、今から遊びに来てよという言葉は、家ではなく彼女の研究室のことである。学校でほぼ貸切の状態になっている化学研究室が彼女と彼女の妹の研究室。弥生はその研究室に遊びに来いと言っている。
「今からですか?」
「うん。そう。今から」
彼女は俺のことを全く考えていないようなほどに潔く答えた。
「だって、どうせ授業なんて受ける気なんてないでしょ?」
「甚だありません」
「じゃぁ、行こうよ。きっと楽しいよ」