初恋の相手を忘れることなんて出来ないだろう。恋という精神的刺激を初めて味わうということは、多分心に刻まれてしまうのかもしれない。忘れたくても忘れられないようなほどにまで衝撃的な刺激こそ初恋で、それこそいつまでも焦がれることだろう。
「先輩って、前に一度、うちの部長と付き合ってたじゃないっすか。そこから、どんな感じで別れたんですか?」
弥生と門川が高一のころに付き合っていて、二人は一度別れている。それでも最近までずっと二人は互いのことを想っていたのなら、どんな風にその別れを感じたのだろうか。
弥生は腕を組み天井を仰ぎ、思い出そうと記憶の中から探り出して言葉にする。それは言葉にならないような、言葉にできないような感情を頑張って言葉にするようであった。
「まぁ、自然消滅みたいなものかな」
考えていた割には、思ったより言葉数が少ない。その言葉にどれだけの想いや過去が詰まっているのかはあまり考えないようにしたいが、触れずにいることもできないだろう。
語らないわけではない。語りたくないわけでもない。ただ、語ろうとすると、言葉が詰まるのだ。だから、彼女は考えた挙句、色々な言葉を削ぎ落として言葉数が少なくなってしまったのだ。
俺が弥生の辿々しくも乙女チックな行動にニタニタしていると、そんな彼女から反撃のように矢が飛んできた。
「そういう君は何でそんなことを私に質問してきたの?」
「え?」
「だっておかしいもん。別に冷やかし程度ならそもそも、そこまで深くは聞かないって。何?まさか、君も恋してるの?」
あっ、これはヤバイ。ヤバイヤバイヤバイ。面倒くさい視線が俺の顔に当たってるし、この人、恋話にキラキラした期待を含む女子の目してるよ。
まぁ、実際、今現在恋などはしていない。前までは白浜が眩しい存在に見えたし、好きに思えた。そして、今でも彼女は眩しい存在である。だが、好きには思えないのだ。いや、友達的には大好きである。だが、何故か男女のそういう関係的に彼女を見ることが出来ない。
彼女がそのような話に疎いという意味もあるかもしれないが、詳しいことは正直言って俺自身も分かっていない。彼女への想いが冷めてしまったのかもしれない。
まぁ、とにかく、俺は恋をしてなどいない。俺が弥生に恋関係の話を持ちかけたのは、他でもない巷で大人気のあの人のことでである。
「違いますよ。俺じゃなくて北瀬のために聞いてるんですよ」
「北瀬くんって、あの北瀬くん?サッカー部の英雄の?」
ああ、やっぱり弥生でもその名前は知っているのであろうか。もう、全校生徒にその名前が知れ渡っているのかもしれない。
「そうっす。そいつが今、恋愛で色々とやらかしているかもしんないんで、そのために聞いてたんっす」
友達のためである。
恋人と別れたのかどうかという疑惑があるあの男のためである。