俺は弥生に北瀬のことを話した。彼と付き合っている人がいるってこと、その人が現在入院していること、そして北瀬がその人のことを裏切ったのかもしれないということ。
「ふ〜ん。そんなことがあったんだ」
弥生は机の上の真ん中にパーティー開きしたポテチをつまみながら頷いた。一応一通り話したし、何となく理解してくれてはいるのだろうが、彼女の態度が何ともダラけていて、この案件のことを本気で考えてくれていないようである。
ポリポリと行儀悪く、まるで家のリビングのソファの上でくつろいでいるかのような姿を見せてくる。まぁ、この化学研究室自体が、もう彼女たち姉妹に独占されており、あながちリビングというのは間違いないだろう。
それでも、弥生にとっては、ここもあと数ヶ月で過去の場所となることに違いない。大学に入って、今まで通りに研究を続けるにしても、ここではない大学施設。ちゃんとした設備の下で彼女は研究するのだ。
そしてこの教室は実質幼乃のものとなる。そしたら、どうなるだろうか。ここにある研究器具は半分にまで減ってしまうのだろうか。
まぁ、彼女たちがどうしようと俺には何にも関係のない話。また姉妹ゲンカにだけはならないでほしいものだ。
弥生は北瀬と湯島のことをそんなに重く見ていない。というよりも、全然深刻に考えてくれない。そりゃぁ、湯島となんか一度も顔を合わせたことなどないだろうが、それでも少しぐらいは心配してやってもいいのではないのか。
彼女はポテチをまたつまもうと、テーブルの真ん中に手を伸ばした。その時に彼女は俺の方を向いてこう尋ねてきた。
「それは過剰に反応し過ぎなだけじゃないの?」
「ウッ‼︎」
その言葉は意外と俺には痛く感じた。もし、俺が過剰に反応しただけのことだとすれば、俺はただ事を荒立てたいだけのクソ野郎になってしまう。
いや、だが、否定はしない。確かに弥生がそう考えるのも分かる。俺だって、過剰に反応し過ぎなのではないかと自問した。
だが、違うという答えが返ってきた。やっぱりどうしても納得がいかないのである。
北瀬がサッカーの天才だということはよく分かった。だが、それでも彼が全国大会に行くようになるには、毎日大変な思いをして部活の練習をしなければならない。
つまり、湯島と連絡を取ることができないということである。
まぁ、俺は北瀬と湯島の音信の通いもどのくらいなのかも知らないし、あくまで推測でしかない。だが、それでも女の子を大切にするような彼奴が、スポーツを先に取るだろうか。
でも、やっぱり弥生に言われてしまうと、そうかもしれないと思ってしまう。
「……そうなんですかねぇ」
「分からない。けど、それでも、好きって気持ちが北瀬くんにもあるのなら、きっと大丈夫なんじゃないの?」