階段を上り教室まで向かう。上履きと階段から鳴る足音は廊下に響くほど高い。だが、その足音とは裏腹に俺の心はどんよりと暗がりがあった。
俺は鞄のチャックを開け、中を覗いた。そこには怪しげな色の液体が入った瓶『試作品第一號ミエナイミエ〜ナイ』がある。さっき、弥生から半ば強制的に受け取らされた。
まぁ、確かに弥生の誘い文句に心を惑わされてしまった俺も悪い。だって、可愛い生JKがいつも俺の目の前にいるのに、何故未だに童貞を捨てることが出来ないのだろうか。そんな悩みを持っている俺にあんな誘惑は反則級であり、俺は彼女の手を取らないわけにはいかない。
だが、やはり今になってみるとやっぱり怖い。だって、手足の一本二本は捨てる覚悟でいかないとどうなるか分からないって言っていたし。
弥生は臨床実験のデータがほしいらしく、俺に頼んだのだが、流石にどうなるか分からない。試作品なだけあって、俺がその薬を飲んだら死んでしまう可能性も十分にある。
しかし、なんだかんだ言って、弥生は凄い人である。天才科学者姉妹の姉として有名人なのだから、大事には至らないだろう。
……多分だけど。
この先に待っている未来に不安と恐怖の思いでいっぱいだった。それでも、俺はエロ漫画的未来を作るため頑張ろうと思う。
俺は鞄のチャックを閉めて、前を向く。その時、学校のチャイムが鳴った。どうやら、三時間目の授業の終わりを告げるチャイムのようで、音が鳴ったら、一気に廊下がざわざわと休み時間の煩さになり変わる。
教室までの道のりで今日起こり得る事態を考えながらぶらぶらと歩いていたら、目の前に見知った顔の男が現れた。
北瀬である。北瀬の周りには男子や女子が五人ほど囲んでおり、彼はその状況にニタニタしている、まぁ、何とも英雄様にはお似合いな姿である。
俺は北瀬に挨拶することもなく、通り過ぎようとした。
が、その時、弥生に言われたことを思い出した。
「考え過ぎじゃない?」
その言葉は俺の足を止めた。やっぱり無視しようと思う気持ちもあるのだが、やはりそれでも、北瀬が湯島を裏切ったという証拠がないから、そう距離を置く必要もない。
すると、彼の方から気付いたようで、俺の方に元気よく挨拶した。
「よう!柚子木!インフルエンザ、大丈夫?」
俺はそんな彼の元気な声を聞いて、やっぱり自分の考え過ぎではなかろうかと思ってしまった。だが、頑固な俺はそう簡単に考えを曲げたがらない。
だから、ぎこちない笑顔を北瀬にむけた。
「まぁ、大丈夫だよ」
俺が北瀬にそんな応答などしたことがない。そして、それを北瀬は分かっていたため、何か引っかかることがあるように、眉間にしわを寄せた。
俺はそんな彼に背中を向けて教室の中へと入っていった。