GHBの部室の扉の前に来た。倉本は右を向いて作戦の確認をする。
「愚民、作戦の通りに動くんだぞ?分かったな?」
「うん。分かってる。だけど、俺、そっち側じゃない」
姿の見えない俺を倉本も認識出来ていない。倉本から見て俺は左側にいるのに、彼女は右を向いてしまった。まぁ、しょうがない。姿が一切見えないとなると、彼女にとっても不便でしかないだろう。
「じゃぁ、いくぞ。作戦開始だ」
「おう」
ーほんのちょっと前ー
「う、嘘!本当に見えない!」
倉本は突然姿が見えなくなった俺がいると知ると、目を輝かせる。なんと酷い人なのだろうか、彼女は人に死んでしまうかもしれない劇薬を無理矢理飲ませたというのに、何故そう目を輝かせているのだろうか。少しはテンパってもいいのではないだろうか。
倉本は見えない俺を触って確認する。人差し指を立てて、俺がいるであろう場所を想定し、そこを指でプッシュする。
「おお〜、プニプニするぅ〜」
「あっ、止めて。そこ、俺のビーチク」
ふざけながら倉本は俺のことを触っているが、こっちはいたって本気。変なことを言ってはいるけど、実際はテンパっている。結構、動揺して現状況を把握できない。いや、把握出来てはいるものの、自分の姿が消えてしまったという事態を頭が理解してくれない。
俺は自分の手を見た。が、そこにあるはずの手が俺の目には見えない。
消えてしまった。本当に、俺の体が見えなくなってしまった。
「服も透けるみたいだな」
どうやらこの薬は服までもを透明にしてしまうらしい。どんな構造で出来ているのかは知らないが、弥生の作ったこの薬でノーベル賞も楽々取れてしまうのではないだろうか。
だが、別に感謝しているわけではない。いや、感謝したくもない。
「なぁ、この薬って二十分ぐらいしたら効果が消えるんでしょ?」
「ああ、そうだ。だから、女の子のおっぱいとお尻と心を鷲掴みにするなら、早めにしておかないと」
「上手くねーよ。まぁ、それなら、いいんだけどさ、副作用ってどうなるの?いつ来るの?」
一番に心配なのは副作用の事である。弥生の話によると、死に至る可能性も否定できないとか……。
ああぁぁぁぁぁッ‼︎俺の人生終わったぁぁぁぁぁ!
俺はついに発狂し出す。しかし、倉本はそんな俺を特に気にもしない。
「ねぇ、責任とってよ!俺、死んだらどうすんのさ!」
「なんだ、そんなにひ弱なことを言って」
「ひ弱⁉︎俺、死ぬかもしんないんだよ⁉︎こんな、馬鹿げたことで!」
「死ぬわけないだろう。大体、弥生は化学者で、万が一の話をしているのだ。一万分の一の確率の話だ。否定出来ないが、どうせそんなん起こる確率なんか一パーセントにも遠く及ばないだろう」
確かにそうである。弥生は根っからの化学者だし、俺を被験者として扱うぐらいなのだから、何が起こるかわかりはしない。つまり、俺が死ぬなんて可能性もあるのだ。
そう、あくまで可能性。一万分の一の小さな確率で、そうそう起こらない。
「いや、でも一万分の一の確率で死んでたかもしんないんだぞ⁉︎」
「だが、今、手足ちゃんとくっ付いてて、生きている。まだ心配することでもない」
「まだ?お前、もっと俺を大切に扱ってよ!せめて人間として!」
「扱うか、バーカ」