俺は今、とんでもないほど壮大で高い高い壁を目の前にしている。
「ねぇ、あの人さ少し雰囲気変わったって思わない?」
「ああ、髪を切ったらしいな」
「イメチェンってやつですか?」
女子たちが机四個を囲んでする女子会を前にして俺は変態行為を出来ずにいた。いや、別に出来ない方が道徳的には良いのだが、俺の欲望的には良くない。
何故だろうか。女子に触ろうとすると、手が震えてしまうのだ。絶対に俺の姿は見えないと自分でも確信し、安全であると分かっていても、もしバレたらという『もしも』を考えてしまうのだ。
『もしも』のパラドックスに閉じ込められたら、そこから抜け出すのは困難を極める。ただでさえ、俺の理性や道徳が変態行為を抑制しているのに、それに『もしも』が加わってしまったため、どうも触れることすら儘ならない。
だが、俺はどうしてもこの欲求不満を解消したい。
そう、まずは肩を触ればいいのだ。
肩を、触れば……。
肩を……。
触れば……。
プルプルと震える手をもう一方の手で押さえて、ゆっくりと肩に手を近づける。
「ん⁉︎」
誰かが声を出した。その声の主は倉本だった。倉本は怒りを顔に出しながら後ろを振り向く。そして、他の女子たちに聞こえないように小言でこう言った。
「何故、私に触る?私ではなく他の女子に触れ!」
そう、ここに来る前に倉本と話した内容では『他の女の子のありとあらゆる所を触る』ことであり、倉本は入っていない。倉本は他の女の子が不安になっているのをご飯のおかずにして楽しもうというわけである。
「いや、その、他の女子たちに触ろうにも触れなくて。だから、まずは手慣らしでお前を……」
「馬鹿か?この間抜け!」
倉本は呆れたような顔を見せる。そして、ため息を吐き、また女子たちに顔を見せる。そんな彼女を見た白浜は不審に思った。
「どうしたのですか?気分がすぐれないのですか?」
「いいや、ちょっと何か気配がしただけだ」
「気配……ですか?」
「いや、それも別にどうってことないものだ。何となく振り向いたようなものだからな」
「は、はぁ……」
白浜が何処と無く倉本を不審に思いながらも、また女子会トークが飛び交う。
そんな中、俺はそーっと物音を立てぬように気をつけて、猫のように移動しながら赤石の後ろに来た。息を潜め、プルプルと震える手を抑えながら近づける。
そして触れた。
その瞬間、何かに肩が触れられたと感じた赤石は何であろうかと後ろを振り返る。しかし、後ろを振り返っても誰もそこにはいない。
「気のせいか?」
彼女は独り言のようにそう呟いた。
だが、そう呟いた数秒後に彼女は自分の長い髪の毛が誰かに撫でられたように感じた。それには彼女も薄気味悪く思い、隣にいる小深の方を向く。しかし、小深は何にもしていないどころか、まず赤石が俺に触られたこど知らない。
「何?どうしたの?」
その小深の表情を見て、彼女は誰がやったのであろうかと疑問に思った。だがその疑問が出てくることはないだろう。
俺が姿を現さない限り。