彼女の言葉はこの場の空気を静止させるには充分なほどの重みがあった。彼女がそう言うと、時が止まったかのようにその場には静寂が走り、白浜以外のみんなの頭がフリーズしてしまったのである。俺も例外ではない。彼女のその言葉の意味を理解するまで、当分動けなかった。
そして、みんなは白浜の言葉を理解した。理解してしまったのだ。
白浜は俺を見ていると、胸が苦しいと言う。それはまさに漫画や小説などで見るあの状況に実に近いのではないかとみんなそう思った。その人を遠くからずっと眺めて、気付けばその人のことを目で追っているというあれ。
そう、例のあれである。
「それって、まさか……」
三人の表情が少しだけ硬くなった。頑張って柔らかい笑顔を見せようとしているのだろうが、俺から見ればその柔らかい笑顔が出来ていない。ぎこちない笑顔である。
「あっ、でも、別に柚子木くんのこと好きってわけではないんです。ただ、柚子木くんが気になるだけなんです。どうなのかな、どうしているのかなとかそんなものです」
彼女はあくまで俺が好きであるということを否定する。あくまで俺は恋愛的な好きではないと。ただ、何故か俺が気になる存在なだけであると彼女は言う。
だが、それを聞いても三人の表情に本当の笑顔はなかった。下を俯いて、何やら思い詰めた表情をしている。
小深がボソッと呟いた。
「それが好きって言うのよ……」
どんよりとした空気にしようとしたわけではないのに、何故かそうなってしまった。白浜は何故そうなったのかの理由を知る由も無い。ただ、しんみりとした空気の中で、みんなの表情から相手の気持ちを察そうとすることしか出来ない状況にいる。
そんな空気の中、俺は白浜のおっぱいを揉みしだくことなど出来ず、俺はそっと彼女の背後から離れた。俺も何故そんなにみんなの表情が暗いのかが分からずにいる。
俺が思うに、白浜が例の発言をしたら、他のみんなは『え〜、それってどういうこと〜?』や『怪し〜い』などと騒ぎ立てて、さらに場が盛り上がりそうなのだが。
俺の予想とは違う目の前の冷たい現実を俺は見た。彼女たちの態度がすっと冷めてしまった理由が分からない。
俺は時計を見た。そろそろ、ここから離れないと姿がみんなに見えてしまう。
俺は倉本の肩を叩き、他の三人には聞こえないように彼女の耳元に口を近づけた。
「その、こんな状況ですまないが、そろそろ薬の効果が切れる。部屋の外に出たい」
俺は彼女にそう伝えた。だが、彼女は素っ気なく「ああ」と返事をしただけ。何故かはともかく、場の空気が最悪な状況に変わりはない。そんな中、彼女に俺がこの部屋から出て行くのを手伝ってもらうのも申し訳ない気がする。
俺一人で出てしまうと、ドアがひとりでに開いるとみんなに思われてしまう。だから、倉本の助けが必要であった。
「……ちょっと、トイレに行ってくる」
倉本はみんなに聞こえるようにそう告げた。そして、彼女は席を立ち、部屋の外に出た。俺は彼女の後ろについて、彼女と一緒に部屋を出た。
「……タイミング、最悪だったな」