何故か地獄のような雰囲気になってしまったGHBの部室を出た。だが、俺と倉本は張り詰めた空気をそのまま持ってきたように、気軽に話しかける気にはならない。重苦しいあの場から離れられたので、開放感があるかと思ったものの、何かがまとわりついているような気になる。
薬の効果が切れた。徐々に俺の体が見えるようになっていく。だが、そんな俺に倉本は反応することなどなかった。
「……行くぞ」
倉本はそう言うと、スタスタとGHBの部室から離れていく。俺もそんな彼女について行くように部室から離れた。
「……すまない。変なことに付き合わせたな」
「え?」
「いや、そのままの意味だ。普通の意味で、すまない」
倉本は俺にそう謝った。それは嘘偽りの無い彼女らしくない言葉。
彼女が謝ると、どうも彼女が白浜の件のことを知っていたと考えることは難しくなった。最初は倉本も白浜がそう感じているのを知っていて、俺を部室に連れて行ったのだと思っていたが、今は違う。彼女も今回のことに関しては何一つ知らないのだ。
だって、知っていたら彼女が俺に謝るだろうか?
彼女が俺にちゃんと本心からの思いで謝ったことは数えられるくらいしかない。謝らないのは基本、彼女が色々と俺を弄ったりしているからであり、別にそこについては彼女の心の奥からの悪意は感じない。あくまで場を楽しませようとして俺を弄ったり、困らせたりしている。
だが、今の彼女はそんなつもりなどするつもりはないのだ。ただ、女の子のおっぱいを俺に揉ませて、それを見て楽しもうとしていただけ。だから、彼女は白浜の暴露など知らないし、第一彼女もまさかの状況に戸惑っている。
「いや、別にそんな困ってないから。大丈夫だ」
俺は彼女に心配をかけないようにと思い、出た言葉がそれだった。正直言って、俺のその言葉は多分嘘である。だが、いつもの倉本じゃない倉本を相手にしているとなると、少しだけ俺もどう話していいのか分からない。いつもは彼女が俺を弄って、俺がガミガミと反論するのだが、もちろん今そんなことを出来るような度胸を持ち合わせてはいない。
彼女は俺の方を向いた。ジッと目を見つめる。そして、またくるりと方向転換をして、何処かへと向かう。
「何処に行くんだ?」
「トイレに決まっているだろう。さっきそう私はみんなに言ったのだ。聞いていなかったのか?それとも何だ、私と一緒にトイレにでも入りたいのか?この変態め」
「いや、そんなこと言ってねぇよ。ただ何処かを聞いただけだろ?」
「……ああ、そうだったな」
いつもらしくない倉本がそこにいた。
「……柚子木、お前はもう帰っていいぞ。悪かったな。変なことに付き合わせて」
「えっ?いや、でも……」
「いや、お前がいて何が出来る?ほら、だからゴートゥー教室」
彼女は教室の方を指差した。
「大丈夫なのか?」
不安になってしまう。彼女も予想していなかった事態に、どうすればいいのか、どう対処すればいいのかが分からないのではないか。
「大丈夫なわけないだろう」
「じゃぁ……」
「だが、お前にいられるともっと困る。それに、薬が切れた今、お前はどうやってあそこにいる気だ?」
何も言えない。彼女のためになろうとはしているものの、彼女のためにどうすればいいのかが分からない。
「柚子木、今はまだお前にお助けを必要としていない。だから、まだ大丈夫だ」
そう彼女は言うと、女子トイレの中へと入っていった。俺は彼女を待っていようかと思っていたが、俺がいても彼女の足を引っ張るだけだと考え、教室の方へ向かうことにした。
彼女は言った。まだ大丈夫だと。
だが、それはあくまで『まだ』。
何が起こるか分からない。