黄色い線が目の前を通り過ぎるようにホームの端と端を繋いでいる。頭上には電車の来る時刻を映す電光掲示板があり、ちらちらとその掲示板に目を移し、電車がやって来る時刻まで待っていた。
白浜は女の子らしい可愛い手袋を嵌めて、首元にはあたたかそうなマフラーを巻いている。そんな彼女とは対照的に倉本は手袋やマフラーを着用せずにいる。そのためか、風が吹くと、肩を上げて両手を擦り合わせていた。
「柚子木くん、本当にその話のネタ好きですよね」
さっきの静かな雰囲気はもう無い。俺が何となく出したネタは二人の静寂を亡き者にした。それに、これから湯島の所へ行くのなら、この件について話合わねばならない。
「……まぁ、もう私は全然気にしてないがな。北瀬の件など」
「他人事だからか?」
「それもある。だが、それ以前に、湯島がそれを望んでいると言ったのだから、しょうがないことなのだ。私たちが無理に首を突っ込む話でもない」
「そうだけどさ……」
倉本の言葉にも納得がいくような道理があり、妥当な意見である。むしろ、俺の意見の方が何かとオカンのようなお節介でしかない。
俺が彼女たちに話しかけた内容はサッカー部の英雄である北瀬の事であった。その話を彼女たちにすると、彼女たちは開かずの口を開いてくれた。
基本的にこの北瀬の事については二つの意見がある。まず、北瀬が湯島のことを捨てたのではないのかという考え方。もう一つは北瀬は湯島のことを捨ててなどいないという考え方である。
別にこんなことは本人に聞けばいいではないかと思うが、その本人がその件に関しては一切話さないのである。多分、今学校の有名人になってしまった北瀬が湯島の話をすれば、湯島の話が学校中に広がる可能性もある。だから、彼は黙っているのだろう。そういう点から言えば、彼は湯島のことをまだ想っているということだ。
しかし、問題は想っているかではなく、付き合っているのかである。
確かに俺たちは北瀬と湯島を前からずっと見てきたし、他の野次馬たちよりかは彼らのことを知っているつもりである。だが、やはり当の本人ではないから、詳しい事情など分かるわけもなく、問題解決に尽力したくても、どうすることもできない。
俺たちは北瀬が湯島と別れていること前提で話を進めている。だが、それでもやっぱり色々な考え方があって、倉本はあくまで彼らの問題なのだから関わらない方が良いという立場。俺は助けてあげた方が良いという立場である。
「愚民の考えも分からないわけではない。だが、やっぱり他者が関わってさらに二人の関係がややこしくなったらどうする?私たちじゃ、その責任を取れない」
「でも、助けたいって思わないのか」
「助けられるものならな。だが、無理だ。北瀬が有名人となってしまった以上、変に動くと株が下がってしまう。北瀬のいい印象を保ち続けた方が両者のためだろう。それともなんだ?北瀬の親友として許せないか?」
「いや、親友ってわけじゃねーよ。ただ、何となくよく一緒にいたってだけ」
そう、あくまで一緒にいたのである。いる、ではなく、いた。過去形であり、現在形ではない。
あいつは有名人だから、生徒の視線の的となる。悪く言ってしまえば、晒し者。そんなあいつと一緒にいたら、俺まで晒し者であり、そんなのは真っ平御免だ。
ホームに電車が来た。電車のドアが開き、中から少し人が駅に降りてくる。その人が出てくるのを待ってから、俺たちは電車に乗る。
席が三人分空いていたので、俺たちはその席に座った。六駅ほど進めば目的地である湯島が入院している病院の近くの駅に着く。
それまで、長く話し合おう。第三者が、当事者に出来る最善の方法を。