「私だって、二人のことを助けられるなら助けたいさ」
揺れる電車の席の上で、彼女は自らの思いを話す。 実際に、北瀬と湯島に倉本は助けられたと言っても過言ではない。
一学期、彼女はクラスの中では結構浮いた存在であった。無口無表情無愛想で、たまに開いた口から出るのは冷徹な言葉だった。そんな彼女はクラスのみんなからたちまち嫌われてしまい、また彼女はその状況を理解しながらも溶け込もうとしない。まぁ、暖かい春の陽気には全くもって不釣り合いな氷の女だった。
俺たちはそんな彼女を仲間に入れた。最初こそぎこちない雰囲気だったが、段々と倉本はその雰囲気に慣れてきて、楽しく話す仲間が一人増えた。
それが倉本にとって鬱陶しいことだったのかもしれないし、もしかしたら倉本の本心が望んでいたことではなかったのかもしれない。でも、結果的に彼女は笑うことが出来て、彼女は今、一人じゃない。
助けたいって思いは俺たち以上にあるはずなんだ。
「ならさ、やっぱ、湯島を一人にするのは可哀想って思わない?」
「可哀想だとは思うぞ。でも、それは北瀬と別れていたらという前提だ。まだ、別れていると決まったわけではない」
「でも、もし別れていたらどうすんだよ」
「その時はその時だ」
話は平行線のまま一向に交わる気配なく、時は過ぎて駅は二駅ほど通っていく。
まぁ、別に急いでいるわけでもないし、喧嘩をしているわけではないのだが、やっぱりこうどうすればいいのかを議論していると、反対の意見しか出なくなってしまう。
俺たちは白浜を見た。ここは口喧嘩になる前に白浜に決めてもらおうと。
だが、白浜は顔を真っ赤にさせ、耳からは煙が吹き出ていた。頭がショート回路を起こしている。多分、俺と倉本の意見のどちらが良いかを悩んでいてこうなったのであろう。
俺の意見は北瀬と湯島のためを思って行動するという案だが、そうなると若干オカンのお節介になってしまう。逆に倉本の意見は二人のプライベートにはなるべく関わらないという案だが、そうなると彼らのことを助けることなんて到底出来やしない。
俺と倉本の意見は対照的なのである。目的は二人のためであるはずなのに、やることが全くもって対照的で、どちらかが白なら、どちらかが黒なのである。
白浜はその白か黒かを選べないでいた。どちらにもそれ相応のメリットデメリットがあり、それを中立の立場からして決めるのは難しいだろう。
「私は、決められません」
「どうしてもか?」
「はい。だって、お二人とも自分のことしか思っていないじゃないですか」
そう言われるのは意外だった。
「だって、あの二人のことを本当に考えているのなら、こんな話し合いなんて起きるわけがないと思うんです」
彼女がそう言うと、電車のドアが開いた。