「よう、湯島。来たぞ」
病室の扉を開けて、俺は中にいるであろう湯島に声をかけた。扉を開けてすぐにカーテンがかかっており、そのカーテンは入り口付近からの視界を遮るようにだらりと垂れている。俺たちはそのカーテンを潜り、湯島に顔を見せた。
「お久〜」
患者服を着た湯島は白い壁の前の白いベッドの上にいた。俺たちの顔を見ると、痩せた頰にの筋肉を使って口角を上げて、目を細くした。
彼女のベッドの台の上には二冊のノートとペンケースがあった。勉強中なのだろうか。その姿を見て、俺は心の中で拍手をした。
「勉強とか俺絶対しないわ」
が、心の声を押し留めることは出来ずにサラッと口から出てしまう。
「あんたがしてたら、明日は隕石が降ってくるね」
「降ってきたら、俺、自分が神様なんじゃないかって思い始めるわ」
まぁ、一応、これでも神様が知り合いにはいるんだけれど。結構すごい神様らしいけど、それでも隕石は落とせねぇだろ。
倉本は湯島のノートを見た。
「これは誰のだ?随分と汚い字だが」
湯島はその言葉を聞くと、ピクリと眉宇を動かした。
「それか、それは……」
彼女は何か答えを探すように辺りを見回した。それが倉本に気付かれないように首を動かさずに目だけで。そして、俺と目があった。
「ああ、こいつ。こいつから借りてんの」
湯島は俺のことを指差した。もちろん、俺はそんなこと身に覚えもないし、ましてや俺はそんなに字が汚くもない。まぁ、確かに男の子らしい字は書くけれど、それでもそこまでではない。
それに、そのノートは理科のノートではないか。俺は理科の時間には黒板の板書を写してなどいない!
俺のではないのなら、もう、誰のかは一発でわかる。考えなくとも分かった。だが、ここは湯島のためである。
「ごめんごめん。授業中寝てたら、板書が結構進んでてさ、急いで写したら汚なくなっちゃったのよ」
俺のナイスな対応に彼女はウインクで返した。
白浜はそんなノートのことは特に興味がないようで、湯島に現在状況を聞いた。
「どうですか?今の所、変わりは特にありませんか?」
「うん。特に変わったところはないよ。ただ、やっぱり一日中ほぼベッドの上だから、つまんないし、細い腕もさらに細くなっちゃったけど」
それでも、湯島の笑顔は健在であるのを目で見て確かめている。大丈夫そうだ。
「まぁ、まだ大丈夫よ。三週間後の手術まではビンビンに元気だよ」
「おいおい、お前、なんで手術後よりも前の方が元気なんだよ」
「今は元気。後はもっと元気になんの」
そう彼女は未来を簡単に口ずさんだ。