二人だけになった。倉本が白浜を連れて飲み物を買いに、一階の併設されたコンビニまで行ったので、嫌な空気にこの二人だけ残されてしまった。
「……バカか?お前は」
ボソッとそう口にした。無音の中で俺はそんな言葉しか掛けてやることが出来ない。大丈夫か、お前は悪くない、などと声を掛けてあげれば良かったのかもしれないが、生憎俺はそこまでお人好しではないし、そんなことを言えるほどイケメンではない。
それでも、無音のまま二人が帰ってくるのを待つのはそれまた酷な話である。
「ゴメン……」
彼女は怒ることなく謝った。刺々しい表情はしておらず、むしろ俯いてさっきのことを少しばかり悔やんでいた。
その後彼女は言葉を続けない。そのひと言だけで終わらせようという気なのか、また沈黙が隆起した。張り合いなく彼女は病室の白いイメージに同化する。
「何か隠してんだろ。言ってみろよ。一応俺も白浜と気持ちは同じだから」
白浜と気持ちは同じだからなどとは戯言である。本当は同じなわけなく、少しだけ違う。彼女は湯島の悩みごとをどうにかしたいと思っているようだが、俺はそんな彼女につられてここにいる。
別に来たくなかったというわけではない。湯島が病気だということを労っているし、そんな彼女にお見舞いをしようと思っていた。だが、だからと言って彼女の悩みを解決することとは別だ。
俺は白浜に言われた。本当は自分のためなのではないのかと。よくよく考えてみれば、俺はそうだったのかもと思えてきた。自分は湯島と北瀬のことを考えているのではなく、自分のことを考えているのだと。
反論はしない。だって、俺はその可能性を肯定するからだ。
俺は多分自分のことを考えてここにいる。それが分かった今、彼女の悩みごとを同情しようとは思わない。自分のことを考えている自分を肯定するために他人には一切関わらない。
来る前とは正反対の考えとなっている。だが、それでいい。それでいいのだ。
俺は湯島に嘘をついた。もちろん、この嘘はバレバレであろう。俺がどのような人間かを彼女は知っているから、彼女は俺の発言も理解出来ただろう。
「あんたなんかが、私の心配なんかそこまでしないでしょ」
少しだけ笑った。それこそ、苦笑いでも、不気味な笑みでも何でも良い。この空気が少しだけ柔らかくなってくれるのであれば。
「あんたみたいなタイプだとさ、色々と話せちゃうんだよね。変に心配されることもなくさ。程々に話聞いてくれるし」
「白浜みたいにのめり込まないしな」
白浜は本気で心配してくれる。それこそ、唯一無二の心強い味方で、それに勝るものはないほどに安心を与えてくれるが、それと同時に心配も俺たちに与える。白浜自身、誰かのために奮闘するのだが、彼女の性格上空振りすることも多々あるため、心配してしまうのだ。
「どうせさ、あんたたち、私と彼のことを聞きに来たんでしょ?」
「そりゃぁ、そうだろ」
「え〜?そう言われると少し悲しいかな。お見舞いのためだよ、って言ってほしかったんだけど」
「言い直すか?」
「あっ、いや、言いよ。あんたに言われてもね、嘘くさい」
そりゃぁ、嘘を堂々と嘘だと宣言してから、そう口にするのだ。嘘くさくなる。
「ねぇ、聞きたい?私と彼のこと」
「……お前は俺に聞いてほしいのか?聞いてほしいのなら、聞く」
倉本と白浜がいない時に俺だけが聞いたところであまり意味はない。それでも、湯島が俺に聞かせたいと言うのなら、話は別になる。
「うん。まぁ、そろそろ話してもいいかなって思ってきてるし。それに、あんたみたいなタイプじゃないと話せないっていうか……」
彼女は段々と言葉をちゃんと発さずに口籠っていた。
「その、正直言って私も本当はよく分かんないんだよ」
彼女が言いたかったこと。たった二十文字程度で終わる言葉はあまりにも意外な言葉であった。