北瀬と何を話せば良いのか。いきなり湯島との恋人関係の話を聞こうか。いや、だがそれではこのポテチ会が初っ端から泥沼みたいな雰囲気になる。なら、与太話でもしようか。だが、そうなると何の話をすれば良いのか。やはり、そこはサッカー部の英雄となった話を聞いて機嫌をよくさせるのか?
うむ。実に難しい。彼自身、煽てられると調子に乗るタイプだが、今回ばかりはちょっと煽ててしまうと、そこから湯島の話を切り出すのが困難を極めるだろう。
悩ましい所だ。ここで選択を外してしまえば、もしかしたら絶交なんてことも……。
湯島の話の輪郭を徐々に彼から聞いていこう。徐々に彼から聞いて、段々と情報を正確なものにすればいい。
「そのさ、北瀬」
「ん?何?」
「お前さ、この頃部活とかちゃんと行ってんの?」
「ん?まぁ、行ってるけど」
「もうすぐ高二になるし、先輩となるためにもしっかりしないと的な?」
「あ〜、そんな感じだな。来年の可愛い後輩マネージャーにカッコいいって言われたいし!」
じっくりと慎重に彼と話をする。なるべく変な所に触れないように。主に地雷とか。
「ふ〜ん。じゃぁ、あんまり暇はないんだ」
「暇?暇ぐらいあるよ。毎週木曜日は休み」
ほう。休みはあるのか。だが、湯島は今年に入ってから一度も来てないと言っていたな。
おかしい。暇があるのなら、北瀬が湯島のいる病院に行きそうなのだが。今年に入ってから、今日までで木曜日は四回ある。何か行けなかった理由でもあるのだろうか。
「なぁ、今年の木曜日、四回ってなんかお前用事あったの?」
「今年の木曜?第一の木曜は正月休みでお爺ちゃんの家に帰省してて、第二は冬休みラストの練習。第三と第四は何もなかったな……。で、何でそんなこと聞くの?」
「まぁまぁ、こっちにも色々あんのさ」
大体の情報は掴めた。つまり、北瀬は二日湯島のところに行くことが出来たのに行かなかったということだ。
おかしい。やはりおかしい。あの北瀬が愛する湯島の所へ行かないとか、色々とおかしい。あの世紀最大のフェミニストが二日も特別な理由無しに湯島の病院へ通わないとなると疑問が生じてしまう。彼の家と病院はそこまで離れてもいないし、一時間もしないで着く距離なのに。
俺はじぃっと北瀬を見つめる。
「え?何?何か怖いんだけど」
「……お前、まさか……」
その次の言葉を言おうとした時、幼乃が俺たちの間に立った。
「ほれ、見つかったぞ。紙コップ」
彼女の小さな手には紙コップが握られている。俺と北瀬は彼女の手に握られていた紙コップを取り、机に置いた。
俺は幼乃に視線を移した。幼乃は何食わぬ顔をしているが、今のは絶対に話を中断させるために真ん中に立ったに違いない。
ため息を吐く。全く、彼女は俺が北瀬にものを申すのがまだだと言うのか。