まさか。そう、そのまさかの言葉が彼の口から飛び出てきた。予想だにしない一言、まるで今までの俺の見解や努力を全て一瞬にして吹き飛ばしてしまうかというほどあまりにも衝撃的な真実。
いやいや、ちょっと待て。待て待て待て。
まさか、そんなわけあるまい。
「……ゴメン。北瀬、今の言葉聞き取れなかった。もう一度言ってくれない?」
そうだ、きっと聞き間違いだ。俺の耳の中に垢が溜まり、音を感知する能力が低下してるに違いない。それに最近イヤホンもずっと付けてるし、きっと……。
「ん?付き合ってるけど?それがどうした?別に驚くことじゃねーだろ?お前、知ってんじゃん」
ウォォォォォォォイっ‼︎驚くわッ‼︎めちゃくちゃ驚いたわ!
だってあの北瀬が堂々と付き合ってる宣言⁉︎この学校一のフェミニストであるあの北瀬が一ヶ月も付き合ってて大好きな女の子を放置して置くか?しかも、来月ぐらいに手術だってことも知ってるだろ?
放置してもなお、こう堂々と付き合ってると言う北瀬がおかしい。彼の信念からして、自らの命よりも女の子のことを優先するような男が、飄々と平気な顔をしているってことがあり得ないのだ。
これまで数ヶ月、こいつとよく一緒にいたが、これほどまでに彼を理解できなかった事はない。
「本当に付き合ってるのか?」
「いや、どう見たって相思相愛。付き合ってるでしょうが。え?何?俺の愛する
彼の口ぶりからするに、やはり別れてはいないようだ。
でも、何故、彼のような男が湯島を放っておいたのだ?
「なぁ、お前さ、湯島のこと放ってただろ?」
「放った?放ってなんかねぇよ。ちゃんとメールしてるよ。週ニぐらいで」
少ないっ!週ニは少ない!いや、世間の皆様がどうかは知らないが、見た目プレイボーイで中身もプレイボーイな北瀬が週ニでしかメールを送ってないと、不安にもなるわ。
「好きって言葉もメールに入れてるし、文面も可愛くなるようにちゃんと絵文字だって入れてる」
軽々しい!好きって言葉は軽々しい!確かに付き合いたてだと、好きって言葉だけで嬉しすぎて興奮しちゃうんだろうけど、怪しまれているときにその言葉を使ったらダメだって!本当の愛があろうが無かろうが、湯島みたいな慎重なタイプの女の子にその言葉は軽々しいよ!
ああ、何となく分かってきた。湯島が北瀬のことを怪しんでしまう理由も分かる気がする。
確かにこれはもしかしたらこの男に欠点があるのかもしれない。
「なぁ、幼乃」
「ん?何じゃ?」
「北瀬ってさ、女心分かってると思う?」
俺の質問に一瞬幼乃は呆気にとられていた。幼乃は北瀬の顔をちらりと見て、また俺の方に顔の向きを戻す。
「北瀬が女心分かっていたら、地球が五回爆発しているわ」
そう、そうである。今回の件で一番の鍵は……。
「北瀬、お前、女心分からな過ぎ!」