北瀬は黙り込んだ。次の言葉を言いたくないようで、顎を手に乗せてう〜んと唸っている。だが、ちらりと俺のことを見て、何かを断念したように首を振った。
「はぁ、お前には言いたくないんだけどなぁ〜。お前、俺が言わなくてもどうせ言わせようと色々してくるだろ?」
「そうに決まってるだろ。知りたいんだから、何かは善処するだろ。俺、知識欲の塊だからね」
「はっ、な〜にが知識欲の塊だ!知識欲の塊なら、お前の成績もっといいはずだろ!」
「成績と自己の知識は別もの」
そう、俺にとって成績とは学校にいるが故にやらねばならない勉強。つまり、勉強することが義務付けられており、やるやらないの前にやらねばならないのだ。そして、そんな義務付けられた勉強に興味なんて示すこともないし、結果やらないのである。
だが、自分が知りたいと思ったこと、所謂自己知識欲は何もないところから自分から知りたいと思った欲求である。義務も切迫もなく、ただ知りたいと思うこと自体にまず価値がある。
それに、義務付けられたものが知りたいものならばまだしも、特に何の興味のないものだったら調べようという気は湧かない。だが、自己知識欲は単純な調べたいという気持ち。その気持ちに濁りはなく、故に突き進む。
「まぁ、とにかく、知りたいことがあんのなら、何が何でも知りたいって思うよね」
それがどのような理由であれ、俺の知識欲となった場合、それを知るまで収まらない何かがある。
「まぁ、今回はそれが知られたくないことなんだけど。まぁ、でもいいよ。別にどうせサッカー部頑張った理由なんて簡単な事だからよ。理由は超単純だから」
「単純なこと?」
「そう。単純な理由だよ。俺はさ、湯島に元気出してほしかったんだよ」
元気を出してもらいたい。彼はそう言った。もちろん、彼の目には濁りなく嘘をついているようには見えない。
「湯島、手術するじゃん?それで、あいつ、段々元気無くなってきてるみたいでさ。そんなあいつの顔見てんのやだったんだよ。だから、俺も頑張ってんだって姿をあいつに見せてやりたかった。迫る手術の日に近づくたびに悲しみを増すあの顔に元気を持たせたかった。だから、俺も頑張ってんだよって姿を見せたかった。お前だけじゃねぇんだって」
それは彼なりの彼女に対する一つの愛の形だった。確かに湯島は刻一刻とじわじわ迫る手術を意識する度に段々と弱ってきているように思える。彼女の顔は元気が無く、そして、俺たちを羨ましそうに見ているのだ。俺たちが何気なく学校に通っているという事実と彼女の現在の状況がまるで違うことを悔しがりながら。
俺たちが普通で、彼女は普通じゃない。そんな彼女は普通を味わえずに、それでも自分だけではどうしようも出来ない。しょうがないの一言で終わらせられるけど、終わらせたくないのだ。
元気を出してほしい。それを彼はあえて行動で起こした。サッカー部で一生懸命練習して、試合で英雄と言われるまでに活躍して。それもこれも全部彼女のためなのだ。
彼女を思ってした行動はまさに素晴らしいものだった。