今さらになって言うが、北瀬はいい奴だ。露骨に面会に行って好感度をもらうように声をかけるのではなく、あえて分からないように、でもパフォーマンスは最大にしてやってのけた。その結果、大きな大会まで行くことも出来たのだろう。その大きな大会も彼にとっては道具に過ぎず、その大きな大会のテレビ中継などで頑張っている姿を見せようと。
その発想は彼にしか思いつかないような素晴らしい発想だった。一見チャラ男、中身も実際チャラ男だが、彼には健気に誰かを思うという気持ちがある。だから、クラスでも中心人物的な役割がある。憎まれキャラでもない男だ。
でも、だからこそ、彼は見落としているところがある。いや、見落としているというよりも彼は知らないのだろう。
「北瀬、お前馬鹿だろ?」
「む?それをお前が言うか?」
「いや、そのさ、お前の思いは確かに素晴らしいと思う。あいつのために頑張ったんだろ?それは男として尊敬するくらい、カッコイイ」
「いや〜、まぁ、それほどでも〜、あるかなぁ〜」
北瀬はあからさまに照れる。若干惚気ながら、俺の話に耳を傾けた。
「お前の考えって主観的だよね?しかも、重度な主観的」
「主観的?それはどういうことだ?」
北瀬は俺にそう訊いた。だが、隣にいた幼乃は首を縦に振りながら頷く。
「それは確かにそうだな。言われてみれば結構北瀬の主観だな」
「へぇ?俺の主観?そりゃぁ、俺の考えだからそうだろ」
「そういうことじゃなくて!……まぁ、そういうことなんだけどさ。お前は湯島の立場になって考えなかったのか?」
そう、北瀬の問題点。それは湯島の立場でこの件を考えることである。
北瀬の考えは全くもって素晴らしく、彼の愛を感じれる、実に彼らしい案だと確信出来る。だが、彼は湯島の立場になって考えたのだろうか。
いや、きっと北瀬は彼女の立場で考えていないだろう。彼は自分の現在の立場だけで考えたため、湯島が喜ぶことをしていない。自分がされて喜ぶことをしているんだ。
パフォーマンスするのは北瀬でも、そのパフォーマンスを見るのは湯島なのだ。湯島がそのパフォーマンスを見たくないというのもあり得る話。
「あの湯島が、スポーツなんて見ると思うか?例えお前が試合に出ていたとしても、快くスポーツを見るか?」
湯島は生まれつき体が弱く、スポーツもろくにしたことがないような人間だ。それにあの白い部屋の中で、自由に体を動かしている人を見るのはあまりにも辛いだろう。
学校にも行けない、体もうごかせない。ただベッドの上で横たわっていることしか出来ない彼女にそんなものを見せたってなんだというのか。
彼女はもしかしたら見ていたかもしれない。だが、それでもスポーツを嫌悪する彼女にとって、北瀬が頑張ることは嬉しい反面、自分の立場を嘆き悲しむのではないのか。
「お前は元気出してもらおうって思ってんのに、逆にその気力を奪ったんじゃねーの?」