「……そう、だったか」
北瀬は顔色を変えた。さっきまで自分の湯島へのパフォーマンスを自慢していたが、一転彼の行動は結果的に湯島に嫌な思いをさせる羽目になった。それが例え湯島のための行動だとしても、湯島からして見ればそんなものよりも、ただ話すだけでいいのだ。
あの湿った空間に四六時中いつもベッドの上で話し相手を彼女は待っているんだ。サッカー中継に出てくる北瀬はどれほど輝いていても、それは画面越しの輝きであり、話すこともままならない。
それなら、会って湯島に今日あった学校の話でもする。それだけで彼女はこの上なく喜ぶ。それが彼女への一番の花束。
「湯島は確かに元気ねーけど、その元気を一番貰えるのって、やっぱりお前と顔合わせることなんじゃねーの?」
俺はもう言うべきことを言った。湯島が今、何を望んでいるのかということ。それを知った北瀬はどう動くのか。
「……ゴメン。ちょっと、用事思い出したからさ、帰っていい?」
北瀬は俺と幼乃に断ると、席を立った。鞄を持って部屋の扉を開ける。
「何処へお行きですか?英雄様?」
「土下座しに行くんだよ」
彼はそう言い残し、廊下を走り出した。チーターのように柔らかい膝を曲げ、腕を大きく振りながら白い外壁の病院へ直行する。流石、だてにサッカー部の英雄と言われるだけはある。
俺はため息を吐いた。とんだ恋話に首を突っ込んでしまったことを後悔する。確かに恋は青春には必要不可欠だし、青い春を彩るのは恋だ。人生に一回しかない高校生活の青春を手助けするという変な部活内容のGHBに入ってはいるものの、ここまで恋話に首を突っ込まなくても良い気がする。
まぁ、俺にして見れば初めて入った部活だし、案外このままでいいとは思うけど、文化部の割には意外と重労働。
幼乃は俺のことをじっと見て、笑った。
「お前は行かなくていいのか?」
幼乃は俺も北瀬にくっ付いて病院に行くと思っていたらしい。だが、そんなわけがあるまい。病院へ行ったら、きっと湯島と北瀬のクソ恋愛劇が始まるだろう。俺が行くということは、恋愛劇のステージに台本も持たされていないただの一般人が立つことと同義。つまり、俺はあそこの場にいてもお邪魔虫でしかない。
「まぁ、ここでのんびりとしてるつもり。俺が病院にいても場違いだろうし、肩身の狭い思いするよりかは、コーラとポテチを食べてた方が断然いいわ」
「そうか。まぁ、飲め飲め」
幼乃はおちょこに酒を注ぐように、俺の紙コップにコーラを注ぐ。注がれたからには注ぎ返さねばならない。もう一本のコーラの入ったペットボトルを手にして、幼乃の紙コップに注いだ。
「お主、分かっておるな」
「いやはや、それほどでもありませんよ〜」
自分の紙コップを天井に向かって高く掲げた。
「北瀬の」
「イチャイチャラブラブな」
「コイバナに」
互いの紙コップを軽く当てた。
「乾杯」
「乾杯」
そして、コーラを一口飲む。
喉に炭酸が程よく染みた。