「はぁ〜、食った食った!」
俺の胃袋が大きくなり、腹が妊婦さんのように突き出ている。もう食べれそうにない。
ソファに寝そべり、げっぷが出た。
「ああ、光牙様、すぐソファに寝そべるのはダメですよ!」
ココはそう注意しながら、夕食の鍋を流しに置き、水を流した。スポンジに洗剤をつけ、そのスポンジで食器を洗う。
「なぁ、ココ。お前ってさ、戦みたいなので巻き添えくらって死んだじゃん?」
「何ですか、急に?まぁ、そうですね。あんまり自分が死んだ瞬間なんて思い出しても、良い気分にはなりませんけど……」
彼女は戦に巻き込まれて死んでしまった。今、こうして幽霊または守護霊としてこの家にいるけれど、前は人間であり、一度死を経験した。そして、彼女は言う。その時を思い出しても良い気分にはならないと。
「じゃぁさ、テレビとかで、そういう場面が出てきたら結構不快に思う?」
「そうですね。時と場合にもよりますけど、基本的にはやっぱり見たくはないですね。自分とその役の人を重ねて見てしまうなんて事もありますし……」
やっぱりそうであった。ココはテレビなどで自分の不幸を感じてしまうような場面はあまり快く思わない。
きっと、湯島もココと同じような状況だっただろう。彼女も、体を自由に動かせないのに、自由に体を動かせる人たちがスポーツをしているのを見たら苦しく思えてしまう。自分の不幸さを改めて実感しているのだから。
だが、ココはこんな話もした。
「でも、あの過去を恨んではいませんよ。いや、まぁ、確かにあんな事はもう二度と経験したくありませんし、多少は恨んでますけど……。でも、そんな過去があるから、今、私はここにいる。私は光牙様の姿を見ていられる。だから、嫌なことばかりではないですよ。今、幸せだなぁってことも感じます」
ココは微笑んだ。照れながらも、今の幸せを噛みしめるように。
「照れるじゃねーか」
「えへへ、でも、本当ですよぉ!」
彼女は微かに顔を赤めている。
うむ、やはり俺みたいな恵まれ者が彼女たちのような立場を想像して考えてみても、どうやら完璧に彼女たちの心情を当てることはできないようだ。その立場ならではの苦労と、小さな幸せが、彼女たちを作り上げているのだろう。
湯島も多分、彼女があのような体でなかったら北瀬とこんなにも仲が良くなかったかもしれない。そんな風に考えたら、彼女が今、喜びを感じているのはきっと、あんな体だからなのだろう。
こんな体だから、ダメなんだと考えるのではなく、こんな体だから、こんなことが出来たのだと考えたら良いのだろう。だが、しかし、それは並大抵ではできるようなことではない。不幸を幸せの礎として考えるのはよっぽどなことだ。
だが、もし、湯島がそのように考えられたのなら、もっと北瀬との仲が良くなるのではないだろうか。