この生徒会長に対して俺は偏見のようなものがあった。まず、生徒会長という役職に就いていること時点で、学校嫌いな俺とは全然違うって思ってた。それ以外にも、最近引っ越してきた奴っていう思いや、そもそも彼女と俺の出来が雲泥の差だとばかり考えていた。
だから、彼女のような人は俺みたいな一個人、問題児に目を向けるような人ではないと思っていたけれど、どうやらそれは違ったらしい。
現に彼女はここにいる。屋上でのんびりと購買で早めに買っておいたパンを食べている。そんな彼女はむしゃむしゃと口にパン屑を入れたまま話しかけてきた。
「ねぇ、君、授業サボってたでしょ?」
「はい。授業、出るのダルかったんで」
「あはは、いいねー。自由人だね、自由人」
「褒めてます?」
「うん。褒めてる褒めてる」
彼女は濁りのない無垢な笑顔を雲ひとつない快晴の下で浮かべた。
「いいじゃん。自由って羨ましいよ。私なんか色々と縛られてさー、自由なんかないからさ。味わってみたいよ、自由」
生徒会長というネームバリューは重い責任と背負いきれぬ期待を与える。
「自分からなりたくてなったんじゃないんですか?」
「違うよ。成績、そこそこ良かったから生徒会長になったの」
あっさりと彼女は言ったが、噂によると学年一位をとったらしい。そこそこ良かったというのが、彼女にとっては一位なのだろう。
「ねぇ、君、チームに入ってんでしょ?」
「はい。入ってますよ。レディースチームの唯一の男です」
「じゃぁ、私もそのチームに入れてよ」
彼女のその言葉を聞いた俺は箸を動かす動作が一旦止まった。幻聴を聞いたのかと思い、ゆっくりと彼女の方を見た。すると、彼女はキラキラと目を輝かせて、チームに入れてくれることを期待している目だった。
何言ってるんだこいつ、と思いながら冷静に彼女の期待を払った。
「無理ですよ。あなたみたいな人、誰がチームに入れるって話ですよ。そもそも、チームの中にはあなたみたいな人を敵って考えてる人もいますし、もし入ったとしても、あなたの評価も下がることになりますよ」
俺が彼女に素っ気なく接すると彼女は頬を膨らませ、まるで子供のように怒りを見せた。豊かな感情を美しく人に見せてくる。
「柚子木くん。君、私にヒドくない?」
「ヒドく接するに決まってるじゃないですか。あなたはこの腐れきった都会の匂いを無理に漂わせようとしている人たちの一人です。が、残念ながら田舎者ですし、そういう匂い嫌いなんですよ。ここは田舎です。だから、都会に染めないでほしいし、田舎は田舎らしく静かでいたいんです。価値も理念も押し付けられて、心底頭にきてます」
俺は彼女に優しい言葉をかけなかった。例え、彼女がどれだけ俺たち田舎の人たちに興味を示そうと、いつしか都会の方が良いと感じて離れていく。今、この学校のほぼ七割は引っ越してきた奴らばっかりで、二割は田舎者なのに都会になろうとしている奴ら。
俺は保守派な人間だから、都会に変わりたくない。変わってしまったら、もう戻れないと知っているから変わりたくないのだ。
「じゃぁ、教室に戻るとします」
「えぇー、もう戻るの?」
「はい。まぁ、教室に戻ったところでみんなからは嫌な目で見られますが、あなたと話しているほうがもっと疲れるような気がするので……」
俺はそう言い残して、屋上から去ろうとした時、彼女は俺を引き止めた。
「ねぇねぇ、私、明日もここにいるから、来てね!」
明るい笑顔である。そんな明るい笑顔だから俺の嫌悪の対象になるのに。
「……分かりました」
だが、断りきれなかった。その時の俺に、断る理由が見当たらなかった。