次の日の昼休み、結局屋上に来てしまった。俺が屋上に着いた時には彼女は屋上で一人、パンをむしゃむしゃと貪っている。彼女は俺を見て、驚いた。
「本当に来てくれたんだ。来てくれるなんて思ってなかったよ」
失礼極まりない。まるで俺が約束をすっぽかすこと前提だったようだし、そもそもそれなら約束を立てた意味はあるのだろうか。確かに俺は素行不良の問題児かもしれないが、それでも約束を破るような男ではない。少なくとも、あそこで俺は認めたのだから、来ないわけにはいかない。
彼女の顔は驚きの顔から、少しだけ砕けた笑みに変化した。締まりのない緩んだ口元が俺の知っている彼女ではなかった。
「えへへ、嬉しいな」
いつも見ていた彼女は壇上に堂々と立ち、生徒の先頭を行く者だと自負する彼女だった。一度も話したことなどないのに、彼女はきっと他の奴らと一緒かそれ以上にこの学校が大好きなのだろうとばかり思っていた。その印象が嫌悪を生み、一部の生徒のような憎しみにも似た感情を抱いていた。
だから、そんな弛んだ顔を見てしまうと、どうも予想とのギャップに驚かされるものがある。意外だった、と心が呟いた。
俺はそのことを話した。すると彼女は頬を膨らませ、怒りを表現する。
「私、言ったよ。こんな役職なんてやりたくないって。だから、あれは全部私のやりたいような私の姿じゃないし……。君なら分かってくれるでしょ?」
同意を求められた。だが、俺はその同意の答えに困ってしまった。そもそも俺は役職なんぞ、やってもいないしやる気もない。そのため、彼女の気持ちなんてこれっぽっちも分からないのだ。
気ままに学校生活を過ごせればそれだけでいい。それしか俺は考えていなかった。その気ままとは、何者にも侵されることのない俺のしたい自由な生活。田舎なのに無理に都会みたいになろうとしているこんな学校で縛られたくはないのだ。
だが、その縛られたくはないというのは彼女の言っていることと少し違う気がする。彼女はこの学校は大好きで、そもそも俺はこの学校が嫌い。決定的な違いがあったのだ。
「分かんないっす。そーいうの」
「ええ、心配してくれないの?」
「心配?別にいいじゃないですか。俺みたいに大勢の人から嫌われている奴より、良いと思いますよ。あんた、好かれてるし、色んな人から」
生徒会長という役職にいる彼女の周りには、彼女の徳を慕うひとが集まってくる。徳ある人には人が自然と集まってくるものなのだ。自分でやりたくないと言いながらも、その役職に抜擢されるのだから、彼女は適任なのだろう。それならば仕方がない。そんな運命の下で生まれてきてしまったことを後悔するしかないのだ。
「そうなのかな?確かに私の周りにいる人は私を良い人だと思ってる人だけど、その人たちの顔の皮がどうも分厚いように思えてしまうの。本当の顔を見せない人たちばっかりで、まるで偽善者を装っている人たちばかり。嫌になっちゃう」
「そんなもんですか?まぁ、俺からしてみれば、あんた、相当顔の皮厚そうですけど」
「そんなことないよー。これでも私、嘘なんて人生で一度もついたことございません!」
その言葉が嘘であろうと、鼻で笑った。すると、彼女はまた目を細く、眉間にしわを寄せたが、すぐにまた明るい顔に戻った。
「どうしたんですか?情緒不安定?」
「違う違う。たださ、やっぱり君と喋ってると楽しいなーって」
「は?」
「なんかさ、君の良くない噂を聞くたび、君と一度話してみたかったんだよね。凄く率直にことを述べて、本当の顔を見せる君が。君みたいな人と話すのは気が楽で、ちょっと楽しいって思えるんだ」