きまぐれスペース・オデッセイ   作:影の設計士

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第3話:時を超えた再会

強制ワープによる強烈なGが収まり、アバカブ号は静寂な宇宙空間へと投げ出された。 エンジンの唸りが止むと同時に、船内の照明が非常灯の赤から通常の白へと戻っていく。

 

「ふぅ。生きた心地がしなかったよ」 パイロットの八田が操縦席でぐったりと伸びをした。

「おい、積荷の様子はどうだ?」 マスターが葉巻の灰を落としながら振り返る。

ラウンジのソファでは、コールドスリープから目覚めたばかりの少年、春日恭介が小さくなっていた。 彼は自分の手のひらを不思議そうに見つめている。さっき無意識に放った力の感覚が残っているのだ。

「僕、どうしちゃったんだろう。ただ、怖くて手を前に出したら、光が」

「あんた、本当に記憶がないの?」 鮎川まどかが恭介にマグカップを差し出した。中身はホットミルクだ。 「自分の名前と、昔地球に住んでいたこと以外、何も?」

「は、はい。気がついたらあのカプセルの中でした。僕、一体どれくらい眠っていたんでしょう」 恭介は不安げに呟く。彼には、自分がいた時代と今の景色が違いすぎることへの違和感だけがあった。

その時、通信パネルが呼び出し音を上げた。

『おーい! 座標に着いたよー! ハッチ開けてくださーい!』

モニターには、先ほど通信に割り込んできたショートカットの少女が映っている。 アバカブ号の横には、いつの間にか小型の高速艇が接舷していた。

「入れるのか、マスター」小松が渋い顔をする。

「恩人だからな。それに、彼女がいなければ我々は今頃宇宙の塵だ」

 

エアロックが開き、軽い足音が響く。 「お邪魔しまーす!」

飛び込んできたのは弾けるような笑顔の少女、檜山ひかるだった。 ショートカットの髪がふわりと揺れ、大きな瞳がクルクルと動く。見た目はどこからどう見ても元気な人間の美少女だ。

ひかるは船内を見渡し、ソファに座る恭介を見つけると――その動きを一瞬だけ止めた。

彼女の内部で、膨大なアーカイブ・データが高速検索される。

《生体パターン照合:99.9%。対象:春日恭介。マスター登録者。》 《最終接触日時:西暦198X年、経過時間:300年と112日。》 《ステータス:捜索任務(サーチ・モード)、完了。》

(ああ、やっと、やっと見つけた!)

ひかるの瞳の奥が歓喜で潤んだように揺らぐ。 次の瞬間、彼女はロケットのように突進し恭介に抱きついた。

「センパ~イ!!」

「うわあっ!? ちょ、ちょっと!」

勢い余ってソファに倒れ込む二人。ひかるは恭介の胸に顔を埋め、離れようとしない。 「会いたかった! 会いたかったです! ずーっと探してたんですよ!」

「え、ええっ? 探してたって、君、誰? 僕たち会ったことあるの?」 恭介はパニックになりながら尋ねる。記憶のない彼にとって彼女は初対面の美少女だ。

ひかるは顔を上げ一瞬だけ寂しそうな顔を見せたが、すぐに満面の笑みで誤魔化した。 「もーっ! 忘れたんですか? 可愛い後輩のひかるですよ! 運命の再会なんだから、細かいことはいいんです!」

(センパイの記憶中枢に障害発生中。でもいいの。センパイが生きていてくれただけで)

ひかるは数百年の孤独を笑顔の下に隠し、恭介の腕に頬擦りをした。 アンドロイドである彼女にとって、300年の月日は永遠にも等しい長さだった。スクラップ置き場で眠り、時には解体されそうになりながら自分のパーツを修理し続け、広大な宇宙を彷徨い続けてきたのだ。ただ一人、このセンパイに会うためだけに。

「ちょっと、離れてあげなさいよ。彼、困ってるじゃない」 まどかが冷ややかな声で割って入り、ひかるの襟首を掴んで引き剥がした。

「むぅー。誰ですかお姉さんは? センパイの恋人?」

「まさか。私はただの教育係兼、用心棒よ」

「じゃあライバルじゃないですね! よかったぁ」 ひかるは無邪気に振る舞うが、まどかを見る目は鋭く分析を行っていた。

《対象:鮎川まどか。戦闘能力:Aクラス。危険度判定:保留。》

その時、船体がガクンと揺れた。

「マスター! ワープの負荷でメインコンピューターが限界です! 航路計算ができません!」 小松が悲鳴を上げる。

「あ、それなら私が直しますよ」 ひかるは軽やかに跳ねると、メインコンソールの前に立った。

「直すって言っても、キーボードが反応しないんだよ」

「大丈夫。私、機械とは『お話』できるんです」

ひかるは手袋を外し、素手をコンソールのポートにかざした。 彼女の指先から目に見えないナノ・コネクタが伸び、直接船のシステムと物理接続する。

その処理速度は人間のハッカーの比ではなかった。 彼女は「ロスト・テクノロジー」の塊である古代のハイエンド・アンドロイドなのだ。

『ピロリロリン♪』 一瞬でスクリーンが復旧する。

「はい、修理完了! ついでにセキュリティも強化しておきました!」 ひかるはVサインを作る。

「な。一瞬で!? 一体どうやったんだ?」 小松たちは唖然としている。

まどかだけは壁に寄りかかりながら目を細めていた。 (今の接続速度。それに、あの子の瞳の奥に見える冷たい光。ただの人間じゃないわね)

そして何よりまどかが気になったのは、ひかるが恭介に向ける視線の重さだった。 一見キャピキャピした軽いノリに見えるが、その底には、もっと深く、執念に近い何かが渦巻いている気がする。

「あんた、一体何者?」 まどかがボソリと呟く。

ひかるはニコッと振り返り、完璧な笑顔で嘘をついた。 「ただの通りすがりの美少女ハッカーですよ! それよりセンパイ、お腹空いてません? 私、美味しい宇宙食のレシピ持ってるんです!」

再び恭介に駆け寄るひかる。 「だから、近いってば!」

 

騒がしくも平和な空気が戻ったアバカブ号。 だが、運命の歯車は確実に狂い始めていた。 記憶を失った古代のエスパー・恭介。 彼を300年探し続けたアンドロイド・ひかる。 そして、その二人の間に立つ、元不良の用心棒・まどか。

まどかは恭介の世話を焼くひかるを見ながら、得体の知れない胸騒ぎを覚えていた。 (退屈はしなさそうだけど。なんだか切ない匂いがするわね)

彼女が吸ったアロマスティックの煙が、換気ファンに吸い込まれて消えていった。

(第4話へ続く)

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