「はい、お弁当どうぞ」
「ありがとう!」
「姉ちゃん、そっちはオレのだ」
「アンタは少し食べ過ぎ!」
慌ただしくお弁当箱を受け取るなり玄関を飛び出して走っていく小鎌さんの後ろ姿を見送り、彼女の分の朝ごはんを代わりに食べてくれる句君の湯呑みにお茶を注ぎ、私も先に向かうことを句君に伝える。
「じゃあ、お皿は水に浸けておいてね?」
「分かった。オレも食べたら直ぐに行く」
そう言いながらも朝ごはんをお代わりする句君の姿にクスクスと笑ってしまう。やっぱり育ち盛りな男の子はご飯をいっぱい食べるのね。
帰ったらコロッケにしようかな?
商店街の方に行けば色々と教えて貰えるし、夕御飯の献立も奥様方に聞けば参考になるものばかりで、お父さんの言っていた社会体験は本当に楽しい。
あかねさんみたいに強くて優しい女の子ともお友達になれて嬉しいこと尽くめだ。
「フフ、三年間いっぱい学ばないと」と笑っていたその時、ぐにゃりと柔らかいものを踏んだ感触と「ぐへっ」という呻き声が聴こえてきた。
「あ、ごめんなさい。大丈夫?」
「ぐっ、こ、ここは、どこだ?沖縄か?」
「此処は東京よ?」
「なにっ!?つ、ついにオレは東京に一人でたどり着けたのか!!」
「わあ、初めての旅行なのね。おめでとう」
パチパチと鞄をお膝の上に置いて拍手をしながら大きなリュックを背負った彼に「じゃあ、気を付けてね?」と言い、離れようとしたら肩を掴まれた。
「すまない。風林館高校を知っているか?」
「私の通う高校だけど、ご用なら一緒に来る?」
「なにっ。いや、そうか。恩に着るぜ」
「いいえ、困った人はたすけるものだから」
私は申し訳なさそうにする虎柄のバンダナを巻いた男の子の隣に移動し、道に迷わないように目印になるものを教えてあげる。
「……で、あそこが風林館高校よ」
「ありがとう。助かったよ、えーっと」
「糸色切。糸に色づく切り絵の切と書いて糸色切」
「改めてありがとう。オレは
「じゃあ、響君だね。遅刻しちゃうからまたね?」
そう言って私は校門前に立って手を振っている響君から離れ、昇降口の下駄箱前で靴を履き掛けていると、あかねさんと早乙女君が走ってくるのが見えた。
「おっと、危ない」
飛び込んできた二人から守るように私を抱き寄せてくれた青い胴着の九能先輩は、キラーン!とどうやっているのか興味を惹かれる歯の輝きを見せてくれる。
「あ、九能先輩。おはようございます」
「おはよう。糸色切、今日も可憐だ」
「あかねさんが見てますよ?」
「なにっ!?」
「あかね、顔逸らしてやるなって」
あかねさん、九能先輩のこと苦手なのかな?