頭上では巨大なパンダとお爺ちゃんがボクシングのように手だけを使い、凄まじい攻防を繰り広げる。詠春拳や翻子拳のように手数を増した技の応酬─────。
「親父ッ…!」
火中天津甘栗拳を使える早乙女君以上のハンドスピードに私は感心を向けつつ、大きすぎる闘気を制御する早乙女玄馬の本体は夥しい量の汗を流し、構えを取る。
「玄馬め、ワシの居らぬ十数年間の内に斯様に力を練り上げるとは!」
そう言う八宝斎のお爺ちゃんは嬉しそうに笑みを浮かべ、天道早雲の顔を蹴り、自分自身の作り出した闘気の化身に着地し、操り始める。
あれだけの力を放出して尚も倒れないなんて相当な許容量をしているのか。何年、何十年と力を練り上げる事に費やしていないと使えない。
圧倒的な気功法の使い手だ。
「コロッケなら牛ミンチかしら?」
「成る程、参考になるかな」
かすみさんに料理のアドバイスを貰いながら、いっこうに終わる気配の見えない戦いを止めるために、私も手を出すべきかと悩む。
しかし、そんなことをしたら早乙女玄馬と天道早雲のプライドを傷付けるかもしれないし。そう簡単に決めていい問題じゃない。
「切さん!三人をとめて!」
「……あかねさん、早乙女君は?」
「アイツは戦いに見入ってるから」
そう言いながら白熱する戦いを固唾を飲んで見守っている彼の姿に苦笑を浮かべ、それなら仕方ないかと私は如意棍槍を引き抜いて、二人の間に向かって放り投げる。
「ぬっ?!」
「横槍を入れるとは、誰じゃ!」
ギロリと足元を睨む二人を見上げ、腕組みをする。
「私だ。夕御飯だからさっさと帰る!!」
「あらあら、急がないといけないわねえ」
おっとりと私の隣で呟くかすみさんの言葉も相俟って、二人の気配は霧散し、シュルシュルと風船の空気が抜けたように萎み、普通のサイズに戻った。
「お父さん、帰りましょうか」
「うむ、そうだな」
「玄馬、早雲、続きは夕飯のあとじゃ!」
「わははははっ!!今日こそブチのめして、引導を渡してやろうぞ!なっ、天道君!」
「そうだな!早乙女君!!」
「……仲良しね」
「そーだな」
少し呆れながらも無事に戦いが終わってひと安心するあかねさんと早乙女君に挨拶を済ませて、早々にお買い物に戻る。コロッケだから副菜のトマトやキャベツ、メインの馬鈴薯もいるわよね。
「句君、一杯食べるから多く作らないと」
フンスと胸を張って歩き出すと、またしてもボロボロな響君を見つけてしまった。君はいつも迷子でボロボロになっているかな。