演劇会に向けて練習するあかねさん達にお弁当の差し入れを行いつつ、風林館高校の校門付近に止まった複数台の黒塗りの車に溜め息を溢す。
もっと穏便に来てほしいかな。
そう思っていると校門に演劇会の準備していた生徒や教員まで集まり、黒塗りの車から降りてきた忍び達を遠巻きに見つめている。
「糸益は何処かな…」
静かに教室から見下ろしていると異質な気配を放つ高校生くらいの男の子と目が合う。間違いなく糸益は彼だ。お父さんの付き添いで会合に行ったことは何度かあるけど、糸益家の雰囲気その物だ。
「ふぅん、あの子が
「凄まじい邪気を放っているだよ」
「ムースはシャンプーに差し入れ?」
「んだ。ババア特製ラーメン持ったんじゃ」
そう言って岡持ちからラーメンを取り出して差し出すムースのラーメンを受け取るシャンプーは割り箸を割り、ズルズルとラーメンを啜り始める。
「あ、九能先輩だ」
「あいや。彼氏と許嫁の悲劇的対決勃発ね」
「シャンプー、お主楽しんどるな?」
「失礼ね。大歓喜的光景と思とるだけよ」
それはもう真実なのでは?と思いながら校門で向かい合う二人を見つめる。────刹那、九能先輩の身体は大きく後ろに弾け飛んだ。
「何あるか!?」
「オラにも見えなんだ!」
やっぱり糸益家は異質だ。
剛刀「風林火山」を持つ九能先輩を容易く押し退けるなんて並大抵の人間には不可能。例え退けてもあれほど吹き飛ばすのは常人には出来ない。
「しかし、あやつは何をしたんじゃ?」
「私の恋人だと分かって怒ってるんだよ。『お前ごとき一介の剣士が糸逢家の女に手を出すな』って文句を言っているし」
「聞こえるだか!?」
「ううん。ただの読唇術」
「お前、本当に何者あるか」
「ただの女子高生かな」
そう告げるとシャンプーとムースは「お前は普通の女子高生ではない」と言い返してきた。失礼すぎると思いつつ、否定できないところもままある。
「そもそも
「……ここだけの話、糸益家は過激派なんだよ。糸逢家は五百年の伝統を守る保守派。現当主は色々と各業界に手を伸ばす革新派だね。で、過激派は五百年の歴史を持つ本家を乗っ取りたいんだ」
「乗っ取ってどうするね」
「さあ?家宝とか売りたいんじゃない?」
おそらく目的は蛮竜だろうけど。
現当主を除いて、私、遠君、命ちゃん、巓ちゃん、大君、この数人しか糸色本家の当主の証ある家宝「蛮竜」に触り、操ることが出来る人はいない。
おまけに、蛮竜は気難しい妖器物だ。