私の放つ竜頭拳の一撃を重ねる毎に骨は軋み、糸益首の手首は血を流しているというのに彼は痛みを感じていないかのように無造作に〝掴み〟に来る。
掴めば砕き、潰す。その技とは呼べない動きで九能先輩の剣戟を捕まえ、頭突きで叩き伏せた。私の細腕など掴めば簡単に砕けるだろう。
「逃げてばかりだな。糸逢切」
「作戦を考えているだけかな」
そう軽口を告げるものの。私の腕力じゃ突破力に欠ける。素早く撃ち込めばスタミナを使い、最終的には捕まるのは目に見えている。
それならスタイルを変えれば良いだけだ。
ゆっくりと竜頭拳を解いて、両手を腰に落とす。
「切君っ、諦めるつもりか!?」
「流石にまだ諦めないかな、九能先輩」
ちょっと使うのは恥ずかしい技だけど。
ふいっと私が糸益首から顔を背けるように身体を動かした瞬間、糸益首は地面にめり込んだ。
「ゴフッ…!?」
「ちゃんと危機察知能力はあるんだね」
効くのかは少し賭けだったけど。こういうのも使えるっていうのは覚えさせておけばブラフに使える。そう一人で納得しながら九能先輩を見ると同じように地面にめり込んでしまっている。
流石にやり過ぎだったかな?
「き、切君、何をしたんだ?」
何をしたと言われても困るかな
今の技は相手を威圧して逃げ場を一ヶ所に固定し、誘導するように殺気を与えて無為に投げる技。言わば「真・呼吸投げ」と呼ぶべき技術だ。
糸色妙様に習ったけれど。
彼女の性分に合わない上、御本人には効かない。それどころか糸色妙様は大抵の事に恐怖しない。私の威圧や殺気なんてそよ風に等しい。
「成る程、お前を欲しがるオレはお前に触ることは出来ないわけだ。だが、殺気に怯むほどオレは軟弱な精神をしているわけではない」
「ストップ。今日はもう帰って貰えるかな、流石に演劇会中止になるとみんなの努力が無駄になるし。普通に遊びに来たら(九能先輩が)相手をしてあげる」
「…………含みを感じるが承知した。次に会うときこそお前を奪いに来る。九能帯刀、暫しの間オレの許嫁をお前に預けておいてやる」
「僕の恋人だッ!!」
最後の最後まで口喧嘩をする九能先輩と糸益首に小さな溜め息を吐きつつ、九能先輩の頬っぺたを両手で掴み、ちゅうっ、と彼とキスをする。
「私は貴方の恋人になるつもりはないかな」
そう言って糸益首を見据える。
「そうか。俄然奪いたくなった」