糸益首襲来から四日後。
あかねさんと早乙女君のキスシーンに大盛り上がりした演劇会は無事に終わり。彼の訪問を知ったお父さんの手紙には「お前と糸益首は正式な許嫁ではない」という一文もあった。
じゃあ、あの糸益首は何のために来たのだろう。
そう思いながら古本屋に扮した御庭番衆の忍びにお父さんへの手紙を渡し、私は古本屋のテレビに映る『怪奇!?五百年の歴史を持つ大名家・糸色家の秘密!』という番組に思わず、こめかみを押さえる。
これは、大君の仕業かな。
糸色本家はそう簡単に人を招ける場所ではないし、なにより色々と大変な物も沢山残っている。まあ、もしものときは糸色妙様が何とかするはずだ。
「糸色さん!」
「ああ、響君、こんにちは」
パタンと古本屋の番台に座ったまま答え、少し泥臭い響君に「お風呂、入っていく?」と勧めると気恥ずかしそうにしながらも頷いた。
「お嬢様、あまり異性を信用しすぎるのはいけません。況してやお嬢様は糸色家の当主候補なのです」
「次の当主は遠君か大君なのは気付いているよ。直系より分家を選ぶかな、あるいは蛮竜の意志が私に傾けば違うかも知れないけど」
「お戯れを。貴女が望めば蛮竜は来るでしょう」
そう言って私を煽てる忍びに溜め息をこぼす。
糸益首に「真・呼吸投げ」を披露してしまって以来、こういう私の事を支持する声はチラホラと増えている。お父さんの策略かもしれないと邪推してしまう。
まあ、お父さんならしないかな。
「糸色さん、お風呂ありがとう」
「別に良いよ。汚れた服もついでに洗濯機に入れてくれたら洗っておくからご飯食べる?」
「い、いや、そこまで世話になるわけには」
グウゥゥゥッ……とお腹が鳴った。
「おやおや、元気な腹の虫ですなあ」
「ダメだよ、ふふっ」
「ぐぬむぅ……」
私の傍に仕え、古本屋を装う忍びは残り物と言いながら大量の料理をちゃぶ台に並べ、大盛りに装われたお茶碗の白米に響君はゴクリと喉を鳴らした。
「いただきます!!」
ガツガツと食べ始める響君の姿にクスリと笑いながら、いっぱい食べる男の子は素直にカッコいいと思う。まあ、一番カッコいいのは九能先輩だけど。
そうっと古本で緩む口許を隠しながら、必死に何もしていない風を装いつつ、また私に向けられる視線にイヤな気持ちになる。
「(響君にも視線を向けている?)」
まさか私と仲良くしている異性を片っ端にリストアップするつもりなのかな。それは、すぐに終わりそうだから大変だね。