悲鳴と共に体育倉庫から飛び出てきた早乙女君の顔には紅葉の痕、体育倉庫の中には法被のはだけ、晒しの千切られた涙目の久遠寺さんがいた。
「ふぅん、へえ、ふぅん」
「乱馬、私でするよろし!」
「乱馬、あんたってヤツは…!」
「流石に節操は持てよ。乱馬」
「てめぇ!オレらに黙って良いことを!」
「やっぱりモテる男は違うなあー」
「ち、ちがっ、そんなじゃ!?おめえらも勘違いしてんじゃねえっての!?あかね、違うからな!これは不可抗力でええぇえええええっ!!!?」
みんなで早乙女君の事を取り囲み、思い思いに二人目の許嫁たる久遠寺さんに覆い被さり、服を剥ごうとしていた理由を問い詰める。
特に女子は倒れている早乙女君を蹴っているし、あかねさんもシャンプーも混ざっている。ひろし君や大介君は蹴られる早乙女君に合掌しているけど。
女の子に乱暴する早乙女君が悪いかな。
「句君、貸してくれる?」
「おう。久遠寺、オレの着ててくれ」
「あ、ありがとうな」
句君の学生服を受け取った久遠寺さんはボタンを止めて、少し頬を赤らめながら地面に倒れ伏す早乙女君に近づき、あかねさんとシャンプーを残し、みんなは少し離れて様子を窺う。
そこへ、早乙女玄馬が現れる。
「改めて紹介しよう。お前の許嫁の久遠寺右京だ」
「へ?」
「……なんね、あかんの?」
思いっきり隠さずに告げたわね。
「なあ、切ちゃん」
「何かな。句君」
「許嫁って何人も居て良いのか?」
「……あくまで許嫁なら大丈夫だよ。婚約していた場合、不貞行為になるからダメだけど。ほら、私の現状も思い出してみて」
「糸益家の
「……実は、昨日の夜にお父さんから『お前の許嫁は残り六人だ』って電話を貰ってさ。あと六人ぐらい居るから早乙女君より私の方が危ういかな」
そう引き釣った顔を句君に向けると、さっきまで早乙女君を責めていたみんなから哀れみと悲しみの視線を受け、余計に悲しくなってしまう。
「まあ、なんだ。同類だな」
「一緒にないでくれるかな?」
ベチンと早乙女君の頭を叩き、私は溜め息を吐く。お父さん曰く「切には幸せな人生を歩んで欲しい。糸逢家だからと無理に拘る必要はない」とは言っていた。
───つまり、お父さんは許嫁を許していない。
糸逢家は本家分家の着物や正装の仕立てを取り仕切っている家系だから自然と分家筋の善し悪しの情報も流れてくるから、それを狙っているのかも知れない。
だから、私はお父さんを信じている。