九能先輩の提案した贈り物に「海に行きたい」と話したのは私だけど。まさか本当に海に来ることになるなんて想像していなかった。
「九能先輩、本当に良いの?」
「切君とデートするためなら僕は何でもするさ」
そう言ってくれるのは嬉しいけど。海の家で大暴れするお爺ちゃんを無視して、そんなことを言われるとちょっとだけ恥ずかしいかな。
けど、私の事を大事に想ってくれいるのは分かる。
しかし、本当に大変なのは早乙女君だ。
お爺ちゃんに女性物の水着を与えられ、仕方なく着ている。水に浸かると女の子に変身するため、あの水着を着るのは仕方ないと割り切っているかな。
ザアザアと波の音を聴いていたとき、お爺ちゃんの放った気合いが海水を弾け飛び、浜辺を九能先輩と歩いていた私は弾け飛ぶ海水に直撃してしまった。
「フフ、すごい勢いだったね」
「おのれ、悪鬼めがっ!!」
パーカーのファスナーを下ろして、海水を吸ってべちゃべちゃになったパーカーを軽く絞り、パタパタと揺らしてまた羽織る。
何故かまた視線を感じ、海を見ると男が立っていた。
正確には海に突き立てた竹馬のようなものに乗り、バシャバシャと音を立てて歩いている。何かの漁かな?と九能先輩を見上げると私の事を……胸の合間を見ていた。
「触りたいの?」
「ごふっ!?ごほっ、馬鹿者!淑女がその様な事を軽々しく口にするものではない!!僕は清く正しくプラトニックなデートを楽しみたいのだ!!」
そう言って怒る九能先輩の態度にクスクスと笑いながら「ごめんね。昨日、テレビでやってた女の子の真似をしただけなんだ」と伝える。
────だけど。
うん、それなりに効果覿面かな。
「其処の者、一つ問いたい」
「ムッ。先程の竹馬男か」
「汝、その女とはどういう関係だ」
「彼女は僕の恋人だ」
「では、人違いだな」
「人違い?誰かを探しているの?」
普通の竹馬ではなく鉄製の竹馬に乗った彼の差し出す写真を見ると私はこめかみを押さえてしまう。私の写真だけど、どうして制服なのかなあ……。
そう不思議に思いながら九能先輩は私と写真を見比べ、唸ったかと思えばいきなり木刀を取り出して、その切っ先を男の人に突きつける。
「貴様は『残り六人の許嫁』の一人だな!」
「なんだ、やっぱり本人だったのか」
ニヤリと笑った彼は私が反応するよりも速く九能先輩と私の足を払い、彼の鳩尾を竹馬の足で殴り上げると同時に私がパーカーに仕込んでいた槍を弾き落とした。
「がはっ!?ゲホッ、ゴホッ…!」
「お?頑丈な身体だな」
「九能先輩っ!!」
彼の名前を叫びながら右足を痛めたせいで、まともに立てず、砂浜を殴って砂塵を巻き起こし、無理やり九能先輩の傍に転がる。
この男、間違いなく