右足に仕込み槍を支え代わりにパーカーを巻き付け、九能先輩を背負って海の家に飛び込み、カバンの中に仕舞っていた如意棍槍を引き伸ばす。
「ぐっ、竹馬ごときに負ける九能帯刀ではないぞッ…!切君は下がっていろ、僕は君の恋人として以前の様な失態を見せるわけにはいかんのだ!!」
「あっ、ちょっと!?」
「行かせてやれよ。糸色」
「んだ。男には退けぬ時があるんじゃ」
私が九能先輩を追いかけようとしたとき、早乙女君とムースによって追いかける事を咎められる。そんなに男の人というのは負けるのが嫌いなの?
いや、分からない。
全然。これっぽっちも分からない。
「切ちゃん、素直に見守ってやれよ。それとも切ちゃんの選んだ男はこんなところで負けるヤツか?」
「……ううん、九能先輩は強いよ」
そう言って私に問いかける句君の言葉を否定し、私は少し不安を抱きながらも
私は挫かれた足に巻き付けていたパーカーをほどき、添え木代わりの槍をカバンに戻してパーカーを羽織り、九能先輩と鉄製の竹馬を降りた男を見る。
しかし、降りてくれたおかげで分かった。
アレは竹馬じゃなくて、あれは槍だ。
「切君、案ずるな。僕は負けん!」
「何が負けんだ。糸色切、お前がやっているのは子供の恋愛ごっこ。真に家の事を思うのならソイツではなく俺を選ぶべきだ」
「フン。何を言うかと思えば、既に僕と切君は婚姻届に記入済みだ!!」
高らかに宣言する九能先輩の言葉に頷きつつ、二本の槍の柄をを中程では外し、両端に異なる向きの片鎌槍を振るって男の人は構える。
「なら婚姻届を出す前に奪えば問題ない!」
「誰がやるものか!!」
砂浜を蹴って踏み出した九能先輩の突きと、私の許嫁を名乗る男の放った突きが衝突し、その衝撃で私の起こした砂塵よりも遥かに巨大な砂塵が巻き起こす。
「俺の槍を受けても砕けないとは…!」
「驚くのはまだ早いぞ!神谷活心流、翔風刃!」
真っ直ぐ上段の構えで振り放つ「飛ぶ剣戟」に思わず、私は目を見開き、両刃槍を構えた男を僅かに退ける九能先輩に見惚れてしまう。
「ホウ。神谷活心流とな、切ちゃんの彼氏は随分と懐かしい流派を使っとるんじゃなあ」
カンとキセルの灰を打ち付けて落とす八宝斎の言葉に、みんなの視線は少しそちらに向く。
「明治時代。ワシも二度か三度戦った事のある流派じゃが、ありゃあ強いぞ。臆せば死ぬ、退かば死ぬ、人を守る剣と誓い、そして極まりし活人剣じゃな」
「────左様。
私のお爺ちゃんが、人を守る剣を極めた。
それを、九能先輩が使っている。
すごく、うれしい。