無事に早乙女君は意識を取り戻したけれど。
天道先輩の方は危険な状態は現在進行形のまま、どうしても目隠しを外したい句君と偽りの愛は悪いことだと訴える小鎌さんの攻防は続いている。
「切君、渡したいものがあるんだが」
「何かな。九能先輩」
私は足に保冷剤を当てて挫けた右足を冷やしているとき、神妙な面持ちの九能先輩が差し出してきたものを見る。それは、指輪だ。下手な装飾は付けていない、シルバーリングというものだ。
ほんのちょっと驚いて保冷剤を畳に落とし、指輪と九能先輩の顔を交互に見比べてしまう。だって、再会してまだ一年も経過していないんだよ?
それなのに、本当に私で良いの?
恐る恐る、指輪を手に取る。
「嬉しい、ありがとう」
「う、うむっ!」
ちゃんと笑えてるかな?と不安に思いながら、ゆっくりと指輪を受け取り、ドキドキと高鳴る胸元に手を寄せて、涙を流しながらも笑顔になる。
嬉しいのに涙が止まらない。
ずっとドキドキとしている心臓が痛いぐらいに熱くて、九能先輩の顔を直視できない。とっても嬉しくて、嬉しくて、嬉しすぎる。
幸せだな、と笑ってしまう。
『残り四人の許嫁』だって、ドンと来いだ。
「句ちゃん、あれが真の男よ」
「くっ。流石だ、帯刀先輩…!」
そう言って尊敬の眼差しを向ける句君は素早く天道先輩の目隠しを外したものの、惚れ薬の効果は既に終わっていたようだ。
「ホホホ、残念だったわね」
ニヤリと笑った彼女は少しだけ冷や汗を流していることに私は気付いている。
「ごめんね、この愚弟が」
「句君、女の子にお薬を使って無理やり自分を好きにさせるのはダメなんだよ?好きなら九能先輩みたいにしないとだよ?」
「帯刀先輩を真似してなびき先輩が振り向くか?」
「ホホホ」
口許を押さえて笑う天道先輩は「私との約束を守っているなら考えてあげるわよ」と呟いた瞬間、ポンと句君はジュラルミンケースを取り出した。
いま、何処から出したんだろう。
「なびき先輩、10億だ」
「今度は金か!この愚弟がー!!」
「あら、本当に稼いで来たのね」
そういえば先日約束していたかな。
けど、句君はそれでいいの?
「次は結納金を稼いで来る」
「小鎌ちゃん、貴女の弟って面白いわね」
「面白くないわ。姉の友達をまさか買収しようなんて、ただのカスじゃない」
「しかし、小鎌君、天道なびきは実際に『10億稼いだら何でもしてあげる』と言っていたぞ。まあ、年貢の納め時というやつだ。大人しく婚姻を結ぶのだ」
「九能先輩、何でもとは言っていなかったよ」
そこだけは訂正しておこう。