友引町の夏祭りを楽しんだ後、私は諸星あたる君に差し出されたメルアド。いわゆるメールアドレスという物を調べると存在しなかった。
こういう不思議な出来事をよく知っている魔女先輩に聞けば「あら、あたる君に会ったのね。ウフフ、可愛かったでしょう?」と言われる。
かわいい?
確かに優しそうだったけど。二股をするのはダメだと思うし、どちらも大切だからと割り切って考えずに放置するのは宜しくない。
「ふぅん、良い考え方かもね。ちなみにメルアドっていうのは『コレ』よ」
そう言って携帯電話を差し出す魔女先輩、最初は気付かなかったけど。どうして、私はこの魔法の杖の事を『携帯電話』と呼んでいるのだろうか。
携帯電話といえばショルダーバッグのように肩に掛ける重たい機械の名前だ。当主様は念じれば通じるという超人みたいな事を出来るけど。
「まあ、深く考えなくて良いわ。あたる君は未来に行った事があるだけだし。その時の記憶を忘れずにいるだけで困った事はないから」
「未来に行った?あの人ってタイムスリッパーかタイムシフトできるんですか?」
「そういう感じの出来事に巻き込まれやすいだけよ。ねえ、ゲンジロウちゃんもそうでしょう?」
「オレに話を振るなよ、オッサンはJK達の会話に付き合えるほど若くねえんだよ」
「?マスターは十分若いかな?」
「出たわね、無差別人誑し糸色フェイス」
「そんな顔はしていないかな」
「あらそう?」
むにっと私の頬っぺたを摘まむ魔女先輩の行動に少し困りながらもマスターの持ってきてくれたケーキを受けとり、お礼を言って魔女先輩にクリームのついた蜜柑をフォークで差し出す。
「ウフフ、蜜柑のケーキってお洒落ね。またゲンジロウちゃんの一人寂しい旅かしら?」
「嬢ちゃん、付き合う先輩は選べよ?」
「魔女先輩は優しいから大丈夫ですよ」
「ウフ、ウフフ♪︎」
よしよしと私の頭を撫でて自慢げにマスターを見据える魔女先輩の顔を見る。やっぱり、この人は不思議な雰囲気を纏っている。
「魔女先輩、コーヒー冷めるよ?」
「温め直すかい?」
「いや、私は二杯目だよ」
「真幌、お前も売上に貢献しろぉ」
「私達はちゃんと窓際の看板娘だろう。ねえ?」
えと、よく分からないかな。
マスターの淹れるコーヒーは美味しいから何杯でも飲めるし、長野県に帰るか此処に移るかはまだ分からないけど。三年間はずっと通うつもりだよ。
「ああ、そういえパコには会った?もしくは例のアレを見つけていたら私に譲って貰えると嬉しいね」
ぱこ?あれ?
一体、何を言っているのだろう。けど、そのぱこさんに会ったりしたら話してみようかな。