みんなの髪の毛は無事だったけれど。壬生先生を弱いと思っていた過半数の生徒は授業中に学校を逃げ出したり、買い食い?というものをしなくなった。
ただ、早乙女君やシャンプー、句君は壬生先生の強さを知ってからというもの本気で挑んでいる。尤も体育館のときもそうだったが、壬生先生は「左ジャブ」以外は使っていなかった。
早乙女玄馬や天道早雲クラスの達人だ。
「クソ!何で右を使わねえんだよ!!」
「僕の尊敬するボクサーが、そうだからかな?」
「───左を制する者は世界を制す。ボクシングの格言だけど、手技だけなら壬生先生は世界最高位だと私は思うかな」
そう言うと早乙女君達は自分の左手を見つめる。牽制、速射、剛打、返し技、防御、九能先輩を相手に彼は左手一本だけで全てをこなしている。
「毛根死滅すれば良いね」
「ははは、シャンプーさんは冗談が上手いね」
「ハゲ」
「……先生禿げてる?」
その質問はノーコメントかな。
まあ、禿げてはいないけど。糸色本家に伝わっている伝説の育毛剤をプレゼントするのもいいんだろうけど。流石に眉唾物だと私は思っている。
ついでに言えば早乙女君達の性別や種族の変わるという特異体質も調べてみたい気もする。まあ、早々に聴くことはやめているけどね。
「あかねさん、玉子食べる?」
「ほんと!ありがとう、切さんの卵焼きって甘くて美味しいのよね。また作り方教えてくれる?」
「うん。早乙女君に味見してもらおうかな」
流石に暗黒物質を消化するお腹は持っていないから、せめてダメージは分散したい。あとあかねさんも照れ隠しせず、味見なら大丈夫だと思うし。
あと、シャンプーと右京さんも来るかな。
「切ちゃん、オレも行っていいか?」
「私は良いけど。句君、天道先輩は良いの?」
「何とかデートにはこぎ着けた」
「あ、うん」
句君はグッと親指を突き立てた。
「九能先輩、あーん」
「うむっ!」
私の卵焼きを食べて嬉しそうに笑う九能先輩は可愛いと思う。それに好きな人にお弁当を作ってお昼ご飯を一緒に食べるのは、何回目でもドキドキしてしまう。
「……お爺ちゃん、どうしたの?」
「ん?なんじゃ、切ちゃんじゃったか」
「うん、私かな」
いそいそと大きな風呂敷を背負って走るお爺ちゃんを呼び止めると風呂敷の中に手を差し込み、古びた巻き物を私に差し出してきた。
「ほれ、お年玉の代わりじゃ!」
「フフ、ありがとうございます」
そう言って巻き物を受け取り、名前を読む。
闘龍極意書
どこかで聴いたことのある名前だな。