来たよ、ライチちゃん 序
ドタバタと騒々しく走り回る音が聴こえる。
「何かあったのか?」
「九能先輩、車だったら危ないかな」
そう話しながら路地を曲がると女の子に変わった早乙女君とあかねさんを追いかける集団を目撃し、慌てて私達を走り出す。
折角のデートは運動会になっちゃったね。
「な、何が起こっているのだ!?」
「オレじゃねえぞ!!ジジイだ!」
「わはははっ!ワシは何もしとらんぞ、不用心に吊るして落ちとる下着を集めとっただけじゃ!!」
「「出たな、妖怪っ!」」
早乙女君の蹴りと九能先輩の突きが八宝斎のお爺ちゃんを吹き飛ばし、ヒラヒラと置いてきたお爺ちゃんを私が受け止める。
「おー♪︎スウィートじゃわいのう♪︎」
「あかねさん、パス」
「要らないわよ!」
お爺ちゃんを押し付け合っていたその時、背筋を突き抜ける強烈な殺気に私達は背後を見る。黒い影がみんなを吹き飛ばし、私達に迫ってくるのが見えた。
これは、かなり不味いかも知れないかな。
「猛虎爆砕拳!」
「疾風爆裂拳!」
早乙女君が走りながら地面を蹴り砕き、その砕けたアスファルトの礫をあかねさんが殴り、礫を更に加速させて黒い影を攻撃する。が、しかし、しなる何かによって二人の攻撃は弾かれた。
「うそ!?」
「掴まれ、あかね!」
「九能先輩、此方に」
「うむ!」
九能先輩の手を握ったまま槍をブロック塀に突き立て、柄を十節に分けて民家の屋根に飛び退き、素早く着地して黒い影の正体に気付く。
ゾウ。象。エレファント。
帽子を被っていることからペットなのは確実だけど。早乙女君とあかねさんも無事に逃げ延びたものの、シャンプーや右京さん、ムース、あかねさんの子ブタが次々と吹き飛ばされていく。
「……面妖な象だった」
「(バット・リーお師匠様の拳友エレハン・キンポー様の仲間だったのかな?いや、でも、あの感じは怒りを纏っていたから別人……別象?)」
「切君、天道道場に行こう」
「うん。私も少し気になるかな」
そう言って私達はエレファントの駆け抜けていった道に戻り、天道道場に向かって走り出す。おそらく今回の事件もお爺ちゃんが関わっているかな。
そうじゃなかったら、襲われる理由がない。
「しかし、象を怒らせるとは何をしたのだ。あの妖怪爺は僕動物は愛でる生き物だぞ」
九能先輩の言い分はもっともかな。もしも動物を虐めていたのなら、私もお爺ちゃんを怒らないといけない。いや、許せないかも知れないかな。
動物を虐めるのは悪いことだ。
獣拳を学ぶものとして、それだけは許せない。