「闘龍極意書を返せ」
そう言って「しょうじょう」。
おそらく中国の神話や伝承に登場する猩々の名前を冠する人間なのでしょうが、問題はあの鉄筋めいた棒だ。かなり長い上に重そうだ。
「僕の切君に何をするつもりだ!」
ゆっくりと歩み寄ってきた猩々に木刀を振るい、私の隣までやって来た九能先輩は素早く体勢を入れ換え、切っ先を突きつける。
「お前、いや、どっちも『特異点』じゃねえな。すげ替えるなんざ許さねえ」
その言葉に思わず目を見開いてしまう。
この猩々という男の人は壬生先生や魔女先輩と同じく特異点なんだ。ただ、二人のように優しい訳ではない。恐ろしいほどに冷たい殺意が溢れている。
九能先輩も冷や汗を流し、早乙女君とあかねさんも八福の集団に囲まれ、かなり焦っている。なにより、一番不味いことがある。
ここ、船の上だ……ゔっ。
「うぷっ、ゔぅ…」
「切君…!」
口許を押さえて船の縁に掴まり、吐き気と気持ち悪さに疲弊していたその時、無造作に鉄筋めいた金棒が私目掛けて振り落とされる。
───が、九能先輩が私を守るように木刀の柄と切っ先を掴み、金棒を受け止める。
「き、貴様ァ!!」
「ホウ。凄まじい闘気だな」
「弱った乙女を狙うなど言語道断なり!!」
そう言うと金棒を押し返し、私の身体を抱き締めると同時に九能先輩は船を飛び下り、天道道場の屋根に着地する。あかねさんと早乙女君はどうなったの?
吐き気に耐えながら見上げた瞬間、早乙女君が殴り飛ばされ、意識を失ったまま空から落ちてきた。
「乱馬あぁぁっ!!」
あかねさんの悲痛の叫びが木霊した瞬間、二つの人影が早乙女君の身体を受け止める。響君とムースの二人が地面に激突する前に早乙女君を受け止めてくれた。
早乙女君が無事で安堵していたあかねさんはお箸とお米を持った男に首を叩かれ、意識を刈り取られていた。私が船酔いにもっと耐えていれば…!
そう悔しさを滲ませながら去っていく宝船を見上げている。九能先輩も同じように怒りと後悔を顕にしながら、去っていく船を見上げている。
「あかね君ッ……」
あかねさん、無事でいて。
次は陸地で戦う。あの金棒男、絶対に負けるわけにはいかない。私は糸色だから、妙様の邪魔になるわけにはいかない。
「……早雲さん、ごめんなさい」
「いや、切君が謝ることはない。あかねなら絶対に大丈夫だ。先ずは、あの八人を知ることから始めなければ対策も出来ない」
怒りを静めるのではなく、四肢に込めている。悟らせず、怒りだけを溜め込んでいる。