「来たわね」
「チッ、死んどけよ」
小さな声で不満を口ずさむ小鎌さんと句君の言葉に気付き、後ろに振り返ると無理やり関節を筋肉で嵌め直したのか。青く痛ましく染まった両肩と足関節から血を流す猩々が温水の流れる階段を登ってきていた。
「カカカッ。そう簡単に諦めるかよ」
「流石に、鬱陶しいかなぁ…」
そう言って私は拳を握り締める。水の抵抗を考えると舞神法は使えないし、超神速の速さを維持するには間合いが狭すぎる。
「つれねえなあ?」
「……はあ、これ返すから静かにしてて」
まだ解読も出来ていない闘龍極意書を仕方なく猩々に投げ返すと「何だ、読めなかったのか?」と不思議そうに言われ、九能先輩の傍に寄り添う。
妙様の傍にも強羅という諦めの悪いストーカーがいるそうだけど。妙様のように心身共に極まっているわけではない私はストーカーは怖いかな。
「しかし、麒麟様を追い詰めるかよ」
「当然だ。乱馬はオレのライバルだぞ」
「待て、乱馬のライバルはオレだが?」
「何を言っとるんじゃ。ライバルはオラだ」
早乙女君って男の子にもモテるのね。
私は感心しながら早乙女君を見る。
「どうした!受けてばかりでは勝てぬぞ!」
「ッ、んなこと分かってんだよ!!」
あのお箸を突破しないと早乙女君の勝率は低い。私ならお箸よりも素早く相手の身体を突けるけど、あくまで加速した超神速の速さに到達したときだけだ。
「でりゃあっ!」
水を打って水飛沫を舞い上げる。
身体を隠すにしても丸見えすぎる。そう思った刹那、無数の突きがキリンの身体を撃ち抜き、大きく後ろに吹き飛ばしてしまった。
「そうか!箸で掴むなら掴めねえヤツを使えば良い!」
「おお、ラーメンの汁を箸で掴めぬのと同じ原理じゃな!」
「やったで、乱ちゃん!」
「流石、乱馬ね!」
みんながキリンを倒したことに喜ぶ最中、ボロボロの身体で早乙女君はあかねさんに手を伸ばした。入れ替わるようにライチさんと猩々の二人は倒れたキリンに駆け寄っていく。
「ん。帰ろうぜ、あかね」
「うん!ありがとう、乱馬」
「……けっ。オレから離れんじゃねえぞ」
そう照れ臭そうに言い放った刹那、早乙女君の背後でキリンが立ち上がった。
「余は負けるわけには、いかぬのだぁ!!」
「いい加減にしやがれェーーーーっ!!!」
あかねさんを抱き寄せるように引き寄せながら繰り出されたアッパーカットがキリンの顎を捉えたその時だった。早乙女君とあかねさんを起点に凄まじい気流が生まれ、空気が渦を成した。
「いかん!飛竜昇天破じゃ!!」
「最後の最後でやらかしおったな、婿殿」
あはは、竜巻は流石に倒せないかなあ……。