私達は日本へと帰国したもののの。私はお父さんの宿泊する施設に一時的に移っている。妙様も使っていたという旅館はすごく過ごしやすい。
大広間の陶器は妙様の作品だ。
「お父さん、朝食美味しいですね」
「ああ」
「お父さん、卵焼きにソースはダメです」
「ああ」
「お父さん、九能先輩と結婚したいです」
「ダメだ」
「……むう、どこがダメなのかな」
それとなく伝えているのに許して貰えず、お母さんと結婚するとき、プロポーズしたのはお父さんだと聞いているし。私だって結婚したいかな。
「残り四人だ」
「じゃあ、教えて欲しいかな。私に許嫁を六人をつけた理由をさ。お母さんも賛同しているとは思えないし、素直に応えてくれるよね?」
そうお父さんに告げると御膳の箸置きにお箸を揃えて置いたお父さんを見つめ返す。口下手だし、気難しいし、不器用なりに愛してくれているのは知っている。
だから、私はお父さんの心意を知りたいんだ。
「お前は急ぎすぎる。糸色景も家訓に残しているだろう、食事の時間には天使が降りてくる。そういう神聖な時間だ、とな」
「景様はこうも言っているかな。子供の願い事は未来の現実。それを夢と笑う大人はもはや人間では無いってさ。お父さんは許してくれないの?」
「アイツに似て口達者になりおってからに」
「フフ、わたしは糸色顔だけどねえ?」
糸色顔。
まあ、簡単に言えば糸色家の血筋は基本的に「妖しさ」を感じさせやすい顔をしている。私は糸色景様に瓜二つだと聞いている。
そういうわけだから「神通力」の有無も未だに訊ねて来る分家筋は多い。それを踏まえての許嫁の人数の多さ。しかし、九能先輩と付き合ったことで、お父さんの考えていた作戦は破綻したわけだ。
「そういえばお父さんの後ろに控えている人は初対面だけど。新しく護衛に着いた忍び?」
「いいや、違う。名乗りは自由だ」
湯呑みにお茶を注ぐお父さんの言葉に従って、ゆっくりと私の正面に移動し、正座する男の人を見つめる。大きくて筋肉質な身体だ。
「お、女だ…女…」
「えと、大丈夫?」
ワナワナと震える男の人にイヤな気配を感じ、真後ろに跳ねるように逃げた瞬間、私の座っていた場所に彼はめり込み、床を抱き締めて砕く。
「自己紹介しろ。馬鹿者」
「ッ、そ、そうだった!お、オレはライムというお前の許嫁に選ばれた麝香王朝の拳士だ。よろ、よろしく頼む!胸を触っていいか?」
「麝香王朝……?」
それって確か不破一族と敵対する組織だったはず?と戸惑いながら彼を見つめ、抱き着こうとしてきたライム君の背中に回り込み、逃げる。
少しイヤな感じがする。