「本当に気力を練れてないわね」
「いふぁいよ、小鎌さん」
「あら、ごめんなさい」
私の頬っぺたを引っ張っていた手を止め、珍しそうに私の身体を触って背中に当てられた貧力虚脱灸の火傷の跡に小鎌さんは顔をしかめる。
「女の子の身体にいきなりお灸を据えるなんて、相当な変態なのは分かったけど。句、あんたも鎌を使いなさい。此方も本気で警護するわよ」
「委細承知」
ゴキゴキと全身の固まった筋肉を解す句君と、私でも驚くほどに怒っている小鎌さんの二人に嬉しく思いつつ、よくこんな卑劣な作戦を思い付くものだと少しだけ感心してしまったのは内緒かな。
しかし、本当に困った。
経絡鍼灸術と言えば全身の点穴を見極める力を必要とし、こんな現代社会で人体の針の穴よりも小さな急所を正確に見極めるなんていう事を出来る人はいない。
…………響君ならいけるかな?と思ったものの、あの怪力で突かれたら絶対に死ぬ。絶対に身体が悲鳴を上げて、粉々に砕けるわね。
「切ちゃん、大丈夫かのう?」
「お爺ちゃん?」
「出たわね、妖怪」
「八宝斎、悪いけど。今は帰ってくれ、切ちゃんが弱っているとなれば敵が来る」
「……乱馬の事は許せん。しかし、切ちゃんが景殿のように非力になってしまえば、お前達の血筋を狙う者にとって格好の標的になってしまう!」
「要するに乱馬は知らんが、切ちゃんは助けたいのか。相変わらず都合の良い爺さんだなー」
そこは感心しちゃダメかな。
「大丈夫だよ、お爺ちゃん。確かに気功法は練れないし、力もかなり抜けているけど。別に戦えないっていうわけじゃないから……糸色流は千差万別、力を必要としない技もあるよ」
「ウチは剣術と鎌術、分銅術があるわね」
「武器組も楽じゃねえよな」
そう話し合っていると来客を伝えるインターホンのリンゴーンという音に、みんなの視線がそちらに向いた刹那、私は前に向かって飛び跳ねる。
「……糸益、首!」
「何だ、本当だったのか。……いや、違うな。全然弱くなっていないじゃないか!!よくも騙しやがったな、あの野郎!……これでいいか」
「な、なにを?」
「決まっているだろ。弱い女を痛めつける趣味もなければ人を貶める趣味も俺にはない。だから、さっさと強さを取り戻しておけ」
ベランダに出た糸益首はそのまま飛び下りてしまうも向こう側のビルの壁を蹴り、速度を押さえながら地面に着地してしまった。
「激励かしら?」
「いや、強気な女を屈服させたいだけだろ」
「アンタ、東風先生に何借りてるわけ?」
「いや、これはひろしからだな」
強気な女、なんですかね。