「乱馬、覚悟するんじゃあ!!」
「さ、早乙女君、殴らせてくれ」
「丸坊主デース!」
「ちくしょおおおおぉぉ!!!力が弱くなってなきゃ負けねえのに!」
ドタバタと私達の近く逃げ回っている早乙女君と、その早乙女君を追い掛ける日頃の恨みを持っている人達の追跡に少し視線を向けた刹那、素早く振り抜かれた右の直突きを仰け反るように両手を地面について後転し、避け損ねて頬を切られながらも回避する。
縦拳の直突き。
糸方褸の流儀は千差万別・千変万化の超大型体系を築き上げる糸色流の手技を極めた自己流、付け加えて言えば弱い人を虐める事に愉悦を持つサディストだ。
よく虐められたから覚えている。
「切さん、私達が代わるわよ」
「手加減なしだ。ブッ殺す」
「言葉の軽い奴らだな。『ブッ殺す』なんていう虚仮威しを口ずさむのは止めた方が良い」
わざとらしく嘲笑の表情を浮かべた糸方褸に鎖分銅を投げようとした次の瞬間、句君の手首は素早く鋭い直突きを受け、鎖を手放した最中、瞬間的に五十発を越えるパンチが彼の身体を襲った。
「残りは唱と、帯刀、トラ柄男か」
「オイ。何勝った気になってやがる?」
「カブァッ!?……バカな、急所だぞ?」
血塗れの句君が倒れていない事に驚愕しながら、髪を捕まれたまま頭突きを受けた糸方褸はちゃんと句君の事を調べていないかな。
彼は自堕落に過ごした事なんめ一度もない。
練習量がまず桁違いなのだ。
「切君、あの男さてはバカだな?」
「あはは、多分、馬鹿なんだと思うよ。自分が勘当された理由も蛮竜に選ばれなかった理由も理解すらしていないんだと思う」
そう言いながらやって来た当初の威圧的な態度や尊大な態度は困惑に染まり、句君の顔を殴るも逃げることが出来ず、頭突きを食らっている。
「パチパチと痒い攻撃ばっかりだな」
「ふざけるなよ、クソ野郎が!?」
ミシミシと力の籠る句君の腕を殴る糸方褸だが、力の差は歴然過ぎる。昔は、子供だったから抵抗らしい抵抗は出来なかったけど。
貧力虚脱灸を無くなれば私も出来るかな。
「さっさと片付けなさい。句」
「分かってるよ。姉ちゃん」
そう言うと句君はガッシリと糸方褸の頭を挟み込むように押さえつけ、グググッ…!と力を込めるように仰け反った次の瞬間、強烈無比な頭突きが彼の顔をひしゃげさせ、たった三発で倒れ伏してしまった。
「なんだよ、雑魚じゃん」
「そうでしょうね。本命はアッチの男だもの」
小鎌さんの言葉に、みんなの目付きが変わる。
私に貧力虚脱灸を据えた男の人が、私の「本当の残り四人の許嫁」の一人というわけかな。