変身したらマッチョな筋肉お兄さんになった小鎌さんの姿に感心したものの、素敵な筋肉の方がカッコいいものだったことしか覚えていない。
「おはよう、切君!」
「九能先輩、おはようございます」
「まさか休日に君に出会えるとは何たる幸運だ。よし、僕とデートしよう!」
そう言うと私の手を握る九能先輩の熱意に苦笑を浮かべつつ、彼の背負っている竹刀袋に異様な気配を感じ、そのまま注視してしまう。
「む?ああ、糸色家だから気付くか」
紫色の竹刀袋の紐を解いて、私に木刀の柄を見せてくれた九能先輩に私は驚く。糸色本家の書庫にある古書に載っていた霊刀魔刀妖刀の中でも極めて強力な武具として有名な「十聖剣」の一振り───。
「伝説の剛刀、風林火山!?」
「フッ。早乙女乱馬を討つため僕の全身全霊を費やしたこの剛刀、次こそヤツを倒してあかね君とおさげの女を魔の手から救い出す!」
おさげの女は、早乙女君なんじゃ?と小首を傾げながら嬉しそうに語る九能先輩。槍なら私も好きなんだけど、刀はちょっと苦手かも?
それにしても、九能先輩はお休みの日でも胴着を着ているのはどうなんだろう。糸色家の会合に出席するときは私も似たようなものだけど。
「しかし、君に会えたのは僥倖だ。以前話していた糸色景の作品を見に来ないか?」
「糸色景様の作品……うん、行ってみたいかな」
コクリと頷いて九能先輩のお家に向かう。
いっぱい糸色景様の絵や本を所有しているが、信頼できる来客にしか見せていないそうだ。確かに「世界を牛耳る黒幕」や「実は不死身でまだ生きている」なんていう根も葉もない噂を聞いたりもする。
そういうオカルトチックなお話は怖いから苦手だ。
「わあ、大きな家ですね」
「当然さ。この九能帯刀、顔よし、姿よし、頭よし、リッチで幸せ、人格者、その上強くて賢いパーフェクト人間は全てにおいて揃っている」
「あら、お兄様と、絵画の女!!」
「小太刀、僕の恋人に失礼だろう」
「え、私って恋人なんですか?」
ビシッと私を指差す強気な女の子に注意する九能先輩の言葉に小首を傾げつつ、そう問えば「おっと、まだ告白もしていなかったか」と一人で納得した。
お茶目さんなのかな?
「貴女、お兄様は変態よ?」
「九能先輩はへんたいなの?」
「えぇ、学校一の変態よ」
学校一のへんたい。
チラリと九能先輩を見上げる。
へんたい。でも、九能先輩はお父さんや小鎌さんが気を付けるように言っていた人なのかしら?ちょっと違う気もするんだけどな。